「元禄時代といえば忠臣蔵。しかし既に名作『赤穂浪士』をやっている以上、刃傷から討ち入りまでという従来のパターンでは納まりません。そこで金融論を専門とする南條範夫氏に、視点を変えて忠臣蔵の書き下ろしをお願いしたというわけです。南條氏は昭和という時代と元禄時代が表面的に非常に似ているところから、元禄という時代を描こうとしました。(中略)経済学者らしく、浅野の刃傷の原因は塩の問題がからむ経済戦争だったという新説を打ち出しました」
南條範夫――1956年に「灯台鬼」で直木賞を受賞、映画「武士道残酷物語」の原作となった「被虐の系譜」「残酷物語」「古城物語」などで“残酷もののブーム”を巻き起こした。作家の顔の他に金融論、銀行論、貨幣論を教える國學院大學経済学部教授でもあった南條はそのモティーフを以下のように語っている。
「最近になって塩田問題が刃傷の原因として取り上げられている。吉良家所領饗庭から出る塩の質が良くないので、浅野家に塩田経営の秘密をたずねたが教えてくれなかった。上野介はこれを遺恨に思っていたという説があり、又赤穂塩と饗庭塩とが市場獲得競争をやっていたなどという者もある。私は、赤穂塩田に目を付けた柳沢吉保と、これに迎合した上野介の策動が刃傷の原因だろうと思う」(NHKグラフ)