「右衛門佐局は権中納言という位の高い公家の娘で将軍の側室ですから、扮装が大変でした。常に身にまとっている絢爛豪華な打掛が縦横3メートルもあって、とても重いのです。どうしたらそれを着て自然な動作ができるか、裁きの練習に明け暮れました。廊下を曲がるときの裾裁きをきれいに見せるために360度曲がる感じで動くとか、公家の出らしい威厳を出すために背筋をピンと伸ばしているとか、現代劇では想像もつかない細かい配慮が必要であることをスタッフの方々が教えてくださいました。そうした衣装や所作とも関連しますが、屏風や天井のセットの美術も素晴らしくてセットの中に入ると全身全霊で演じなければならないと身が引き締まりました」
「元禄太平記」は精緻なセット美術でも知られるシリーズのひとつだが、それが顕著に表れたのは“忠臣蔵”のシンボルである“松の廊下”の見事さだ。前々作「国盗り物語」で初めて使われたハンディカメラが、縦横に移動して“吉良邸”や“殿中”のセットを隅々まで映し出していく。至近距離からのクローズアップも可能になったハンディカメラの登場が、セット美術を向上させたのだ。
「廊下や襖、障子などのセットが素晴らしいので、ドラマに厳格な骨格が生まれたのだと思います。セットの中には元禄時代の空気が流れていました」
最高視聴率41.8%という驚異的な視聴率を上げた「元禄太平記」は、「テレビ時代劇のセット美術」という隠れたテーマに挑んだ作品でもあった。(植草信和)