一度、どちらの側からでも武力が使われれば、日本や韓国でも、そして北朝鮮でも大量の死者が出る。先日、北朝鮮分析で知られる米ジョンズ・ホプキンズ大学のウェブサイト「38ノース」は、米朝間の軍事衝突となり、北朝鮮が東京とソウルに対し核攻撃を行った際には、両都市で計約210万人が死亡し、計約770万人が負傷するだろうとの予測を掲載した。
金正恩氏と挑発の応酬を繰り返し、軍事的選択肢をちらつかせるトランプ大統領。そしてそれを単純に支持し続ける安倍首相。そして、北朝鮮を米軍が攻撃することを支持する国会議員が大量に誕生しそうなこの選挙。
今ここにおいて、日本のもう一つの問題は、北朝鮮問題を主たる争点の一つとする選挙であると仮にも宣言しておいて、その点について具体的な議論がほとんどなされていないことである。
北朝鮮に対話を前提としないアプローチをしてその結果何が起きるのか、米国の軍事攻撃を支持するならするで、結果日本にどのような被害が出るのか出ないのか、被害が出るとすればどこまでなら許容できる範囲の被害だと考えるのか、そのような説明までしてこそ国民に選択肢を提示したことになる。
現在、経済制裁が進められているが、制裁をするのであれば、出口をきちんと見据えてなされなければならない。北朝鮮が「経済的に苦しくなりましたから、核兵器を放棄します」と白旗をあげるというシナリオがこの事態においてあり得るはずがないことは誰の目にも明らかである。制裁の目的は「対話に持ち込む」ということでなければならず、それは、現時点では北朝鮮の核保有を前提としたものでなければ、実現しえないだろう。この8月、スーザン・ライス前米国連大使も、ニューヨークタイムズ紙への寄稿で、北朝鮮の核保有を前提とした対処法を主張した。
自衛隊に詳しい山口大名誉教授の纐纈(こうけつ)厚氏(政治学)が毎日新聞のインタビューにこう答えていた。「北朝鮮から見れば、圧倒的な軍事力で朝鮮半島の緊張を高めているのは米国です。在韓米軍や在日米軍の戦力を段階的に軽減すれば『脅威』は確実に弱まるのに、その議論が全くない」。現在の日本においてこのような発言をする勇気に敬意を表したい。
「国難突破解散」だというのなら、北朝鮮問題について、いくつもの選択肢を具体的に、日本のリスクや被害の可能性も余すところなく提示して議論がなされなければならない。もちろん、この議論は、このような状況が続く限り、選挙後にも必要である。この事態に日本がどう向き合うか、冷静かつ真摯な議論が求められている。(猿田佐世)