
家族の認知症を疑っても「病院に連れて行く」のはハードルが高いもの。傷つけず診断に結びつけるにはどんな方法があるのだろうか。週刊朝日MOOK「家族で読む予防と備え すべてがわかる認知症2017」では、どうしたら家族を病院に連れて行けるのか、医師に尋ねた。
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認知症は早期発見・早期治療が大切――といわれますが、家族が「なんだかおかしい」と感じても、実際に病院に連れて行くまでにはタイムラグがあります。
東京都在住の山中博美さん(仮名・52歳)は、5年ほど前から一人暮らしの実母(78歳)のもの忘れが気になっていました。
「母が話す『最近の出来事』が会うたびにまったく同じで、孫の年齢もそのつど確認してはメモしているのです。本人も『おかしい』と思っているようでしたが、病院に誘うと傷つけるのではないかと言えませんでした」
ところが今年の春、法事の席で話題にのぼった博美さんの伯父(母の兄)のことを、母は思い出せませんでした。
「母は親戚に『ボケたんじゃない?』と言われ、帰りの電車で涙ぐんでいました。意を決して『病院に行こうよ』と切り出したところ、母は『なんでそんなひどいことを言うの!』と大声でどなり、口をきかなくなりました」
以来、博美さんは病院に誘うことができないでいます。
■身近な人だからこそ指摘されたくない
「お母さんは深く傷ついているのだと思いますよ」
そう話すのは川崎幸(さいわい)クリニック院長の杉山孝博医師です。
「娘はいちばん身近な味方。だからこそ大失敗してショックを受けているときに、さらに追い打ちをかけるようなことを言われたと感じてしまったのでしょう」
認知症の初期の場合、本人の不安はとても大きいのだと杉山医師は説明してくれました。
「自分はボケているはずがない。でも、もしもボケていると言われたらどうしよう……そんな不安でいっぱいなのです。その気持ちを想像して、抵抗なく受診するにはどうすべきか、家族は知恵を絞ってほしいと思います」