■受診の“物語”を作る

 スムーズな受診に結びつけるために、杉山医師は以下のような提案をしているそうです。

(1)まず「かかりつけ医」に相談
 高血圧や足の痛みなどで日常的に通うクリニックがあれば、そこの医師に相談してみましょう。受診時に医師から「最近、忘れっぽいことはありませんか?」「一度検査をしてみては?」などと提案してもらうとスムーズに進みます。本人が受け入れたら、紹介状を書
いてもらいましょう。

(2)いきなり「精神科」はNG
 受診する気になっても、「精神科」「精神内科」という言葉に抵抗を感じてしまい、受診を拒否する場合があります。高齢者にとって「精神科」はまだハードルが高いのです。「もの忘れ外来」「老年科」「神経内科」「心療内科」などを選ぶほうがいいでしょう。

(3)家族の健診に同行してもらう
 行きたがらない場合、「私の健康診断についてきてくれない?」と誘って病院に同行してもらいましょう。その場合も病院の医師には事前に「健康診断に同行してもらっている」と伝え、2人いっしょに見てもらうようにお願いしておくといいでしょう。

(4)保健所の健診に誘う
 病院を嫌がる人でも、保健所なら抵抗を感じないかもしれません。あらかじめ保健所にもの忘れの相談に応じているかを確認し、大丈夫なら健康診断を名目にして受診しましょう。ただし保健所ではMRIやCTなどの専門的な検査を受けることはできません。

(5)訪問診療してもらう
 どうしても受診を拒む場合、訪問診療を受ける方法もあります。地域包括支援センターに相談すれば、紹介してくれるでしょう。自宅で血圧などの測定をしてもらいながら、もの忘れの様子を確認してもらって診断を受けることができます。

「家族にウソをつくなんて、と思うかもしれませんが、ウソではなく『物語を作る』と考えてみてはいかがでしょう」(杉山医師)

 それでも拒絶する場合は「あせらないほうがいい」と杉山医師は言います。

「確かに受診は早いほうがいいですが、家族が無理強いをしてしまうと、ますますかたくなになることも多いものです。少し時間をおいて再びトライしましょう。押してダメなら引くのです」

 そのときには、別居している息子や娘、友だちやケアマネジャーなどの第三者に誘ってもらうのもいい方法だとか。

「日ごろ近くにいない人からの提案のほうが、受け入れやすい傾向はあるようです」(同)

(取材・文/神素子)