「糖尿病は最初、痛くもかゆくもないから、みんな甘く考えている。でも、知識があれば病院をきちんと受診するわけです。それが死亡率の差につながる」

 いまや長寿県となった長野県の躍進ぶりは、急に経済が上向きになったわけでなければ気候が良くなったわけでもない。ヘルスリテラシー教育が大変、功を奏した例なのだと中路教授は分析する。

「短命県を返上するには、なによりもまず、県民一人ひとりがヘルスリテラシーを身につけること。正しい健康の知識と考え方、意識のないところに行動変容は起こらないですから」

■「頭からつま先まで」2千項目検査

 県民がヘルスリテラシーへの意識を高めるためには、若い人たちへの教育が最優先と中路教授は強調する。県内では、小中学校での健康授業や職場や地域の健康宣言などの取り組みも盛んだ。

「長野などの平均寿命の高いところはどの年代でも死ににくいですが、青森はどの年代でも死にやすく、生活習慣病による死亡率が高い。とくに死亡率の高い中高年(40~60歳代)になってからの教育ではもう遅い。子どもたちへの教育が大切です」

“短命県”を返上すべく、県でもさまざまな取り組みを行っているが、05年から実施されている大規模住民合同健診「岩木健康増進プロジェクト」では、中路教授がプロジェクトリーダーを務める。

 年に一度、弘前市岩木地区の住民約千人を毎日約100名ずつ、弘前市職員や地域住民をはじめ、産学官民連携チーム総勢200~300名で連続10日間、早朝6時から健診する。13年目になる今年も5月下旬の10日間、弘前大の全学部の教員および同大医学部3年生も内科系の健診を中心に参加。

 住民一人ひとり、“頭からつま先まで”およそ2千項目を一人当たりおよそ5~6時間かけて検査する。ゲノムから腸内細菌、心臓のエコー検査、聴力や口腔歯科、軽度認知機能関連まで、その検査項目はとにかく膨大だ。

 ここで得た膨大なデータを解析し、認知症や糖尿病などの生活習慣病の画期的な疾患予兆発見の仕組みと予防法の開発につなげる。13年には、これらの研究事業が文部科学省の「革新的イノベーション創出プログラム」に採択された。

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