列車は立つことができないほど揺れる。気温が40度を超え、熱風が吹き込む。過酷な列車のなかで、なぜここまで……と考えていた。
ミャンマーは急速に車社会に変貌しつつある。この区間にも、バスや乗り合いバンが頻繁に走っている。そのなかでミャンマー国鉄は、運行を続けるロジックを考えた気がする。列車の運賃は驚くほど安い。カンゴーからカレーミョまでは7時間ほどかかるが、運賃は100円程度なのだ。もちろん大赤字だが、貧しい人々の足という、政府を巻き込んだ大義名分をつくった。こうすれば、ミャンマー国鉄の職員の雇用は確保される。彼らは皆、公務員である。
そのためにも列車は走らせなければならない。遺物のような車両をなだめすかして、毎日、律義に運行させている。
うがちすぎといわれるかもしれない。しかし列車とは呼ばないような車両に揺られていると、そう思えてしまうのだ。存続のために貧しさに寄り添う列車……。
列車は暗くなってカレーミョの駅に着いた。閑散とした駅だった。
下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など