「今日は投げたかったですし、できれば勝ちたかったですけど、勝負事なので。でも抑えられたので良かったです」
9回に登板し、無失点に抑えた大石達也は、2015年に森コーチが2軍投手コーチとしてやって来たからこそ今の自分があるという。抑え切れない涙を流しながら、恩師に想いを馳せた。
「間違いなく、慎二さんがコーチで来ていなかったら(自分のキャリアは)終わっていたと思います。感謝しかないです。(投球時の)体重移動、リリースの仕方、指先の力の入れる場所を教わりました。個別でトレーニングをしているときも、楽しく、僕が飽きないように、いろんなトレーニング方法でやってくれました。とてもいい人でした」
先発して7回3失点で負け投手になった菊池雄星は、天を見つめながらポツリと言った。
「勝ちたかったですね」
森コーチは菊池にとってアニキのような存在で、この日のマウンドでもいろいろなことを思い出しながら投げていたと振り返る。
「もちろん技術的なアドバイスもしてもらいましたけど、打たれたときに『自信を持って投げろ』とか、『お前の球はすごいんだから』と励ましてくれたり、そういう部分で勇気づけてもらったりしたこともあるし。私生活の相談とか、何気ない会話も一番しやすいコーチでした。技術的なこと以外でも、多くのことを教えてもらいました」
勝利を手向けようと、選手、コーチ、裏方、ファン全員が心の底から思った。それでも、願うような結果にならないのが勝負の世界の宿命だ。
試合では頭を切り替えようと思っても、たった数日で切り替えられるはずがない。当然、前段階の準備にも影響があったはずだ。だが、だからこそ森コーチに教わったことを、選手たちは言葉として表したのかもしれない。
この1年間、森コーチへの感謝を込めながら投げていくのかと聞かれた菊池は、静かに言った。
「勝ち続けることが一番ですから。そこだけだと思うし」
すべて前向きに考える──。
森コーチの教えを胸に、チームは戦いの場に向かっていく。(文・中島大輔)