奇跡的ともいえる逆転勝ちを目の当たりにして、“あの名シーン”がフラッシュバックした。
1点ビハインドの西武は7回表、無死から栗山巧・メヒアの連続安打で好機を作ると、8番・炭谷銀仁朗が送りバントを決めて、1死、2・3塁。9番・菊池雄星に代打・外崎修汰を送ると、ワイルドピッチで1点。外崎が死球で出塁し、さらに外崎の盗塁で1死・2、3塁と攻め立てると、1番・金子侑司は遊撃ゴロだったが、メヒアの代走として三塁走者にいた水口大地が悠々ホームを駆け抜けて決勝点を奪ったのだった。
「ゴロゴー」、「当たったらゴー」の走塁戦術。
これは、2008年の西武対巨人の日本シリーズ最終戦、1死・三塁の場面で、片岡治大がみせた“神走塁”と類似したものだった。
スクイズではないが、打者のバットに当たるか、ゴロと判断された時点でスタートを切る。08年の片岡は中島裕之が三塁ゴロを放つと、巨人内野陣が前進守備を引いていたにもかかわらず、ホームに滑り込んだのだ。今になっても語り継がれる高等技術の走塁こそ、西武が最後に日本一に輝いた時にみせた走塁戦術だった。
洗練された戦術を駆使して勝ち抜いていく。日本一13回、リーグ優勝21回を誇る西武にはそんな強さが備わっていた。
ヤクルト戦の試合後、劇的な逆転勝利に「これ以上にない形で同点に追いつき、逆転できたのは大きい」と安堵した辻発彦監督はこう振り返っている
「同点・逆転の場面は、足の速いランナーを出して勝負を賭けた。ギャンブルスタート。バットに当たった瞬間に三塁走者はスタートを切るくらいの勝負を賭けていた。今のうちのチームは足の速い選手がいる。ヒットで点を取るだけじゃなく、そういう展開でも得点ができるようになっている」。
昨年まで3季連続Bクラスに低迷していた西武はある難題を抱えていた。
打撃部門の主要タイトルに軒並み顔を出すのだが、そうした選手のポテンシャルほどにチーム成績が伴わなかったのだ。
その脆さは、数字を拾うと簡単に答えはあった。打率や本塁打、得点は上位をキープするものの、盗塁数が少なく、失策数がずば抜けて多かったのだ。
レベルの高いパ・リーグの投手陣を相手には、打つだけの戦い方では頭打ちになる。ここ3年間の低迷は、勝ちパターンが限られてしまっていたからだった。
その再建を託されたのが、辻監督だったというわけだ。