実は、加計学園以外にも京都産業大学という実績のある大学が候補として存在し、「岩盤規制」にドリルで穴をあけると世論に訴えた場合、京都産業大と加計学園の両方の申請を広く世論の監視の中で審査するということになる。しかし、加計学園の申請は十分な根拠に乏しいという事情があった。

 そこで二つの仕掛けで加計学園だけに絞ろうとした。

 一つ目は、認める学校数を一つにしたことだ。競争を促進したいなら、最初から一つだけと決める必要はないはずなのだが。

 これについては、二つもいっぺんに認めると獣医師会と族議員の反発が大きくて実現が危うくなるから仕方なかったというのが、御用コメンテーターたちの言い訳だが、これも全くいい加減な話だ。

 仮に一つだけにするにしても、まず、両校に申請を出させて、正々堂々と国民の前で審査すればよかった。しかし、それだと、おそらく京都産業大に軍配が上がるのでまずいから、二つ目の仕掛けとして、応募要件に「広域的に」獣医師系養成大学が存在しない地域に「限り」認めるとして、大阪に獣医師養成コースがあるから京都産業大は資格がなくなるという要件設定がなされたのである。

 つまり、「規制緩和」という錦の御旗は単なる見せかけで、実態は、加計学園への利益誘導の手段として使われたに過ぎないということだ。

●天下り問題への前川前次官や文科官僚たちの思いを想像する

 ここから先は、官僚経験者としての推理になるが、おそらく前川氏は、こう考えたのではないだろうか。

 まず、天下り問題で、官邸のパフォーマンスに利用されたという思いがある。

 霞が関の常識では、文科省の天下りなど「かわいい」ものだ。大学の事務局長くらいになっても、年収は現職時代とそれほど変わらない。2000万円にもならないケースも多い。それに比べて、財務省、経済産業省などの幹部は、一流大企業などに天下りして年収5000万円というケースも珍しくない。本来は、そうした天下りにメスを入れるべきなのに、安倍政権は、大手省庁と戦うと政権が危ないからと弱小官庁の文科省をやり玉に挙げて、いかにも安倍政権が天下りに厳しいという宣伝に使った。

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