健さんはチャン・イーモウと、「単騎、千里を走る。」(2006年)という映画を作っている。

 ふたりの交流はそれ以降も続き、08年、チャン・イーモウが北京オリンピックの開会式・閉会式の演出を引き受けたときに、健さんが自ら刀匠に依頼して打ってもらったひと振りの日本刀を、励ましの意味を込めて贈ったのだ。

 そのとき健さんは、「日本刀は『守護と支持』を意味しています。言葉では何といっていいのかわからないけど、これが自分のあなたに対する気持ちです」とチャン・イーモウに語ったという。

 長野県坂城町に「鉄の展示館」という施設がある。

 県内でただひとりの人間国宝だった宮入行平刀匠が亡くなったとき、次男の小左衛門行平氏はその作品の多くを町に寄付して、父の刀を鑑賞できるようにした。それを受けて町が造った施設が「鉄の展示館」だ。

 健さんと宮入小左衛門行平刀匠は日本刀をとおして深い交流があり、健さんの遺族が同町に、彼が所蔵していた刀剣類を寄贈した。寄贈品は安土桃山時代の名工堀川國廣作の脇差や、宮入小左衛門行平作の短刀など、刀剣類8点と刀掛け、日本刀専門書籍類だった。

 同館では、健さんが亡くなった翌年の15年9月に「高倉健さんからの贈りもの(日本刀)」という展示会を開催、多くの人が詰めかけたという。

 小左衛門行平氏は、「高倉さんは仕事の選択や人との関わりなど、“縁”をとても大切にしていたように見受けられた。毎年欠かしたことのない善光寺参りの道中でもあり、多少なりとも縁のあるこの地で遺愛の品の公開を喜んでくださっていると思う」と語る。

 多数寄せられたリクエストに応えて、同館は16年4月にも「高倉健と宮入小左衛門行平の絆」展を開催している。映画の中では、「日本侠客伝」で初めて日本刀で悪親分を斬り捨てた健さんはその後、数え切れないほど人を殺めた。そのなかには、「網走番外地」シリーズ、「昭和残侠伝」シリーズなど、健さん扮する橘真一、花田秀次郎ら主人公が、日本刀と寄り添うように描かれた名作も多い。

 日本刀がもっとも似合うスターだった健さんの日本刀に対する思いのなかには、劇中で心ならずも日本刀(白鞘も多い)で斬り殺した悪役たちへの鎮魂の意味もあったのではないか。

 そんな想念を抱かせる、「健さんと日本刀」なのである。

※週刊朝日MOOK『武将の末裔 伝家の宝刀』より

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