もうひとつ問題があった。においは拡散する。そして、記者が試食を行ったのは大勢が仕事をするオフィスだったのだ。
普段はせわしなく響いているキーボードを打つ音が一切聞こえない。おそるおそる見渡すと、編集部内のほぼ全員がこちらを凝視していた。その表情は、決して友好的なものではない。
記者から3メートルほど離れたデスクで仕事をしていた、ある女性部員は後にこう語った。「私は納豆が苦手なのですが、まさか職場でこれほど強烈な納豆のにおいを嗅がされるとは思っていませんでした。集中力が完全に途切れ、作業効率が著しく落ちました。『飯テロ』という言葉がありますが、これは単なるテロです」
食べる前からひとつの教訓を得ることができた。「ペヤングソースやきそばプラス納豆」を食べる際に最も必要なものは、箸でも、ドリンクでもなく、換気だ。
■果たして味は?
気を取り直して、試食に移る。
納豆と焼きそばを混ぜ合わせてしまうと、どちらも似た色であるため、通常のペヤングとほとんど見分けがつかない。どれほど納豆が存在感を主張するのか、いざ口に運んだ。
最初にやってくるのはおなじみのソース味。そこにキャベツの香りが顔を出し、そして納豆のまろやかなうま味が口に広がる。意外なほど調和しているのだ。 強烈だったにおいも、食べ始めるとすぐに気にならなくなった。一言で述べるなら、料理としてまったく問題ない。
だが言い換えれば、パンチがないとも言えてしまう。納豆が糸を引くわけでもなく、やや口の中がぬめぬめとするが、その主張はどこか控えめだ。事実、4名で試食を行ったが、納豆好きを自称する2名からは「納豆感が足りない」という意見が出た。
強烈な味付けを売りとするインスタント食品が人気を博す昨今において、この納豆焼きそばの味付けは賛否が分かれるかもしれない。コアなファンは不満を抱くおそれがある一方で、広い層から受け入れられる可能性も秘めている。いずれにしても、ペヤングと納豆を愛する人なら一度試してみても損はないだろう。換気扇を回しつつ。(ライター・小神野真弘)