「ラオスのルアンパバーンという都市でドローンを飛ばした時のこと。ここはメコン川とカーン川が合流するエリアなのですが、上空から見ると、ふたつの川の水の色がぜんぜん違うのです。些細なことですけど、すごく得した気分。また、ドバイの人工島パームジュメイラを空撮したときのことも忘れられません。パームとはヤシの木のこと。この島はヤシの木の形をしていることで知られているのですが、自分の目でそれを確認することができました。上空から見ないとわからないことって、意外とあるんだなと気付けたんです」
また、ドローンを通じて、地元の人々と交流を深められたことも貴重な体験だった。ドローンの映像には、さまざまな人々に囲まれる2人の笑顔が映っている。千貴さんは「地域によってはドローンを見るのも初めてという人もいて、撮影をしていると珍しがってくれました。ドローンのコントローラーには空撮している映像をリアルタイムで確認できるディスプレイがついているのですが、『自分たちが住んでいる場所を初めて空から見た!』と喜んでくれたんです」と語る。
そして、ドローンを使った一連の経験は、千貴さんに新たなキャリアを提示している。BBCにとりあげられて以来、世界中から映像作家としての仕事のオファーが舞い込むようになった。ニューカレドニア、タイ、南極、日本国内と、最近の仕事だけでも多岐に渡る地域を股にかけている。記者が取材した当日も、「明後日からまた海外に出発です」ととても忙しそうだった。
けれど、彼らの400日間がくれた本当に大切なものは、別のところにあるのかもしれない。真理子さんの話が印象的だ。
「新婚旅行から帰って、日常の見え方が変わりました。旅行中、楽しいことは多かったけれど、不自由なことも多かった。日本では蛇口を捻ればお湯が出てくるし、人種差別に出くわすことも少ないし、便器にトイレットペーパーを流せるし、交通ルールもきちんと決められている。こういうことって、本当にありがたく、恵まれていることなのだと気付けました。そして夫との関係性にも大切な変化が。もともと私たちはとても仲がいいと思っていた。でも、旅を経て、ずっと絆が深まったと感じています。旅行中の大変なことを一緒に解決していくうちに、『これから待ち受けている困難も2人ならきっと乗り越えられる』という自信がついたのです」
2人の400日間の旅は終わりを告げたが、もうひとつの旅は今も続く。400日など比較にならないほど長きにわたる、人生という名の旅路だ。そこで彼らが何を得るのか、その前途を祝したい。(ライター・小神野真弘)