「最初、夫から世界一周を提案されたときは驚きました。でも不安はあまりなかった。確かに、10年以上続けてきた大好きな仕事を辞めなければならなかったのは寂しかったです。でも自分が一生その仕事を続ける姿をイメージできなかった。良い転機だったと思っています」
現代の若者らしい、柔軟な価値観だが、旅にかける彼らの想いは決して軽いものではなかった。旅行の予算は500万円。家賃3万円のアパートに暮らし、徹底した節約生活を送って、2年間でこの大金を貯めた。その間、「旅を無事に終えられるかどうかの不安もありつつ、楽しみが膨らんでいきました」と真理子さんは振り返る。
そんな彼らの旅を彩ったのが、ドローンによる空撮だ。いまや旅人が自身の写真や動画をとり、SNSに投稿する行為は珍しくないが、これほど大掛かりなガジェットを使うケースはなかなか稀有。一体なぜドローンだったのか。千貴さん曰く、それは「たまたまだった」という。
「もともと考えていたのは、2人が一緒に並んだ写真をいっぱい撮ろうということ。世界の観光地の写真は綺麗なものがネット上にいっぱいあります。でも2人の写真は僕たちにしか撮れないから、自分たちのために残したかった。でも旅行が近づいたある日、YouTubeですごく格好いいドローンの空撮映像を観たんです。それで、2人の記念撮影とドローンを組み合わせたいと思いました」
いまYouTubeに「ハネムーントラベラー」と打ち込むと、千貴さんと真理子さんが撮影した数多くの映像を視聴できる。映像の始まりは、どれも仲睦まじく並ぶ2人の姿から。ドローンが空高く上昇するにつれて2人は小さくなり、やがて息をのむような絶景があらわになる。
千貴さんは「正直なところ、行く先々で撮影した映像をネットに投稿していればバズるかなー、なんて気持ちもありましたけど、BBCにとりあげられて、世界中の人に見ていただけるなんて想定外」とはにかむ。
●2人が旅から得たものは?
ドローンを持参したことで、確かに2人の旅はより実りあるものになった。例えば、通常の視点では気付けない風景を知ることができたと真理子さんはいう。