当初、豊洲市場の開場予定日は11月7日だったため、その引っ越し日として、11月3日から6日が休市日とされていた。11月の移転延期については、さまざまな思いがそれぞれにあるはずなのに、「あの連休は、そのまま休みになるのか」と、湿っぽい話にしないところに、築地らしさを感じた。

 この築地のカレンダーには、赤字が休市と書かれた注記のほかに、もうひとつ注記がある。四角で囲われた日は(休日でも)開市、という印だ。この印が付いた日は、1年を通して1日のみ。今年は、年内最後の日曜日となる12月25日がその日にあたる。暦の上で既決事項となっているほどに、年末の最繁忙期、築地は忙しい。

 茶屋(買い付けた魚をトラックに積み込む場所)でひと休みしている魚屋さんに、年末の忙しさについて話を聞いた。

「(年末が忙しいと言っても)せわしないばっかりだよ。もうかってもうかってなんてことは、今はない。今は、正月でもいろんな店が開いているじゃない。それに、(おせち料理は)保存食だったわけじゃない。保存しとく理由が今はないんだもの」

 年末は、ここぞとばかりのかき入れどきなのかと思いきや、魚屋さんにとってはそういうものでもないらしい。それでも、2トントラックの荷台には、数の子とカニの入った発泡が、幾つも積み上がっていた。

 ある仲卸店の方は言う。

「まあ、年末に忙しいのは、築地の風物詩みたいなもんだね。昔と違って、稼ぎ時って感じじゃぁないなあ。それに、昔の忙しさはこんなもんじゃなかったから」

 またまたご謙遜を、と思う。売れていてもたいしたことはないと言い、忙しくても暇だと言う人たちだ。この時期、普段ならば片付けをはじめる11時を過ぎても、まだ営業真っただ中という店は少なくない。

どれだけせわしなくとも、昔ほどの稼ぎどきではないのかもしれないけれど、きっと、この1年間に貫き通した仕事に抱く誇りを、魚を介して締めくくるのが築地の年末なのだろう。

 今年と違い、来年の築地のカレンダーには、市場移転に伴う休市日は設けられていない。来年の最繁忙期の「四角で囲われた開市日」は12月23日。年が開ければまた、例年通りの築地の暦が、年末に向けて続いていく。

岩崎有一(いわさき・ゆういち)
1972年生まれ。大学在学中に、フランスから南アフリカまで陸路縦断の旅をした際、アフリカの多様さと懐の深さに感銘を受ける。卒業後、会社員を経てフリーランスに。2005年より武蔵大学社会学部メディア社会学科非常勤講師。アサヒカメラ.netにて「アフリカン・メドレー」を連載中

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