「東京の台所」築地市場。約80年に及ぶ歴史を支えてきた、さまざまな“目利き”たちに話を聞くシリーズ「築地市場の目利きたち」。フリージャーナリストの岩崎有一が、私たちの知らない築地市場の姿を取材する。
2016年も間もなく終わる。豊洲市場への移転が延期され、ないはずだった築地市場の年末が今年もやってきた。岩崎が市場でもらった2017年のカレンダーには、移転に伴う休市日は記されていない。ないはずだった2016年の年末を、市場はどう締めくくるのだろうか。
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もうないものと思っていた、築地市場の2016年の年末がやってきた。
12月24日の築地市場。いつもは10時をまわると少なくなりはじめる一般客の出足が、この日は昼頃になっても絶えない。「年末っぽくなるのはクリスマスが終わってからかな」と、ある仲卸店で働く方は話していたが、場内全体に、わさわさとした忙しさがあった。
12月に入ると、場内で出会った方々から、カレンダーをいただくことが多い。築地市場の休開市日が記されたカレンダーだ。日曜日と祝日が赤く記されているところは一般のものと同じだが、基本的に、水曜日が休市日のために赤くなっていることと、土曜日は平日と同じく黒く記されているあたりに、市場特有のスケジュールが見える。この暦にあわせて、全国の港も出荷を準備しているとも聞いたことがある。
私が普段買い物をしている青果店は、水曜日は、品ぞろえに限りがある。今から十数年前、この青果店の番頭さんに「ごめんね。今日は(築地)市場が休みだからさ」と言われて初めて、私は市場の存在を意識するようになった。野菜も魚も、市場からやってくるもの。生産者と消費者の間にある市場の存在を、私は休市日から意識するようになったのだ。
市場の暦があることを知って以来、私の日常の買い出しもまた、築地の暦に従ったものとなっていった。
築地市場の移転延期が決まったばかりのこの夏の終わり、築地場内を訪ねると、こんな話をしてくれた方がいた。
「今、築地の連中の間で何が話題になっているかわかるかい? 11月に予定していた豊洲移転がいったん延期になってさ、カレンダーでは休市日になっているあの連休が、休みになるかどうかって話でもちきりなんだよ。連休になるんだったら、なにしよう、どこに行こうってさ」