希海に入って2日目だという鶴岡さんは、こう話していた。築地で働き始めてから23年目になる鶴岡さんは、築地をよく知った人だ。そんなベテランをしてプロ集団と言わせるものは、「希海の選別」とはいったい何なのだろうか?
希海では、売り上げの7割は料亭や、すし店から成り、残り2割を海外へ出荷し、1割は街の鮮魚店に卸している。
希海の壁には、客先が印刷された茶屋札(注文内容を記すメモ用紙。この茶屋札に梱包内容などを記し、発泡に添付する)が70種類ほどかけられている。客先が印刷されているということは、それぞれの顧客から一定の注文が入り続けているがゆえ。その茶屋札には、どこかで聞いたことのある有名店の名前が数々記されていた。出荷先は北海道から九州まで、全国に渡る。海外の出荷先は、ハワイ、アメリカ本土、シンガポール、タイ、香港など。取材時には、台湾からの買い付け客が、入念に品定めをしていた。国内からも海外からも、希海によせられた信頼は厚い。
信頼の理由は、店の人たちの立ち振舞からも感じることができる。注文の入った魚を袋や発泡に入れる際には必ず、魚の触感を確かめ、状態を見極め、時には魚を空いたスペースに並べて外観まで見定め、慎重に丁寧に、梱包していた。選び抜いて引いてきた魚であっても、状態はさまざま。この店の中でまた、選別のふるいがかけられる。
魚の良しあしだけでなく、客先の要望に応じた選別も行っている。キスなどは、あえて小さいものを求める客もいる。大型のヒラメは、シブイチ(四分の一)のおろし身にしてまな板の上に並べて売られていたりもする。大きさをそろえて納めることも、魚選びのポイントとなっている。
この日、塩原さんは黙々とカツオを下ろし続けていた。丸々としたカツオ見て「うまそうなカツオですね」と声をかけると、塩原さんは苦笑い。見た目だけでは判断できないのだという。
「(魚選びは)経験が大事。例えばカツオの場合は、荷主さん(魚を出荷する漁師や港の漁業関係者)によるところが大きい。このカツオは気仙沼のカツオで、カネト佐々東(という荷主)からのもの。カネトさんは、いい」
また、魚は切らないとわからないとも。頭をとって切り口を見れば、魚の質がわかる。時には魚をおろす際に食べてみながら、塩原さんはその日の魚の質を見極めているのだった。信頼できる荷主を見極め、さらに、入ってきた魚を見極めながら、選別をくりかえしていく。カツオが入った発泡は山となって積まれていたが、それぞれのカツオをおろす順番まで、状態を見ながら判断しているという。