希海でいただいた、ヒラメのシブイチのおろし身
希海でいただいた、ヒラメのシブイチのおろし身
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「東京の台所」築地市場。約80年に及ぶ歴史を支えてきた、さまざまな“目利き”たちに話を聞くシリーズ「築地市場の目利きたち」。フリージャーナリストの岩崎有一が、私たちの知らない築地市場の姿を取材する。

 活け場の取材でお世話になった、仲卸「やま幸 希海(のぞみ)」を訪ねたことで、仲卸の仕事を改めて知ったという岩崎。ベテランをしてプロ集団と言わせる希海の「選別」とは何なのか? 目利きたちの仕事に迫った。

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 生きたまま築地に届いた活魚が集められるのが「活け場」だ。そこで活魚のセリは行われる。活け場の端に「希海」のターレを見つけて歩み寄ると、2つのダンベ(魚を入れる大型のプラスチック容器)と丸型の容器に、カレイとヒラメ、タイ、ハモが入っていた。それぞれの容器にはボンベで空気が送られている。活け場から仲卸店舗まで魚を運ぶ間にも、海水の状態は変わるという。セリ落とされた魚は素早く店へと運ばれ、丁寧にそれぞれの水槽へと移されていく。ガランとしていた希海の水槽は、あっという間に魚でいっぱいになった。

 6時40分、セリを終えた希海の部長である中西さんは店に戻ると、ひと休みする間もなく魚をさばき始めた。

 エラの後ろと尾の付け根に切り込みを入れて血抜きをし、死後硬直を防ぐために切り込みから針金を入れる「神経抜き」を行う。このひと手間によって、鮮度がより長く保たれるからだ。魚からほとばしる鮮血は、文字通りほんとうに鮮やかな赤だ。私が自宅で魚をさばいていても、これほどに赤い血はこれまで見たことがない。きっと、酸素をたっぷりと含んでいるからなのだろう。

「うちらの仕事は、選別です。それが、仲買の仕事だと思ってます。同じ魚が3枚入っても、状態は違います。せり落としてからここに来る間にも、変わってくることがあります。選別ができれば、価格競争にならないですから。仲卸が生き残る道は、そこしかないと思っています」(中西さん)

 いい魚を選んで販売することは当然のように思えるが、その実どういうことなのか、私はよくわかっていなかった。築地の仲卸の方々にお話を伺っていると、「選別」「選ぶ」「択る(よる・選ぶこと)」という言葉を、よく耳にする。

「前から希海に入りたかったんですよ。ここはプロ集団ですから。希海のみんながプロです」

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