「東京の台所」築地市場。約80年に及ぶ築地市場の歴史を支えてきた、さまざまな“目利き”たちに話を聞くシリーズ「築地市場の目利きたち」。フリージャーナリストの岩崎有一が、私たちの知らない築地市場の姿を取材する。
築地を取材していると、多くの人が「昔に比べて変わった」と口にする。昔ながらの築地が残る場所はいくつかあるが、「活け場」もそのひとつだ。築地で一番と呼ばれる活魚を扱う仲卸の取材を通し、岩崎が実感した築地らしさとは……。
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「築地を取材しているんだったら、活け場は見ておいたほうがいいですよ。築地もずいぶん変わりましたけど、あそこにはまだ、昔ながらの築地が残っていますから」
仲卸で働くある人から、以前にこんなアドバイスをもらった。生きたまま築地に届いた活魚が集められる「活け場」のことは知っていたが、遠目に見るばかりで、中の様子は全く知らなかった。その人に紹介してもらった、活魚を扱っているという仲卸「やま幸 希海(のぞみ)」を、訪ねた。
希海の活魚を取り仕切るのは、この道23年の中西幸治さん。私が中西さんを訪ねたのは、未明の2時半ごろだったが、中西さんはまだ長靴ではなくサンダル姿だった。事前に入ってきた注文を、2時頃から整理しているという。
「この時間から(注文を)さばかないと、(セリと開店準備に)間に合わないんですよ」
中西さんが注文を整理している間、店舗を見渡してみた。活魚を入れる大きな水槽が4つ。そのうちの一つは、ガラス張りの水槽だ。水槽をのぞき込んでみても、まだ魚はほとんどいない。それぞれの水槽にはパイプがつながっており、そのパイプは天井へとつながっている。天井にはエアコンの室外機のようなものが設置されている。海水をろ過しながら、水温を一定に保つための機械だ。それぞれの水槽には、空気を送るためのボンベがいくつもぶら下がっていた。
3時半頃、注文の整理を終えた中西さんが仕事道具を準備し始める。包丁、うろこ落とし、針金、はかりなどを、定位置に並べていく。サンダルから長靴に履き替え、ゴム引きの前掛けをして準備完了。朝一番に出荷しなければならない魚を数匹さばいたところで前掛けをはずし、ノートとペンを持って活け場へと向かった。