「くだらない話ばっかりしているように見えるかもしれませんけど、くだらない話をしながら、お互いに『買う気』があるかないかを、聞いているんです」

 5時20分、セリ開始5分前のベルが、活け場に鳴り響いた。セリに参加する仲買人が、ベニヤ板でひな壇が作られた活け場のセリ場へと集まる。私は、外で中西さんを待った。

 それぞれの魚には番号が振られており、その番号でセリはとり行われる。その番号が多いため、次々とこなしていかなければ、時間がかかりすぎてしまう。「10分間に100~300番くらい進む」とも。仮に10分で100番進んだのだとしても、ひとつあたりに割かれるセリの時間は6秒。10分で300番進むのなら、たったの2秒という速さだ。スピード感あふれる活け場のセリは、7時ころまで続く。

 セリが行われているころ、活け場の周辺には、ターレとネコ車(手押し車)が続々と集まってきた。セリが終わるのを待つ間、隣り合った人同士で歓談する姿があちこちで見られた。魚をセリ落とす仲買人と、セリ台に立つセリ人も、途中で何度か表に出てきて休憩する。若い衆が、菓子パンや缶コーヒーを届ける姿もあった。活け場内に点在する事務所では、セリ上がった魚の伝票が次々と起こされていく。

 その場で魚をおろす人々もいた。ダンベ(魚を入れる大型のプラスチック容器)に板をわたし、せり上がった魚をその場でさばいていく。ダンベには海水が満たされており、まな板が汚れるたびに海水で流していた。

 さまざまな立ち位置で築地の仕事に携わる人々が、セリ最中の活け場に集まっていた。誰もがこの活け場に欠かせない大切な登場人物だ。セリの最中の活け場には、築地のオールキャストが勢ぞろいしたようなにぎにぎしさがあった。

 活け場を取材するといいとアドバイスをくれた人が伝えたかったのは、この風景なのだろう。そんなことを思いながら、私は中西さんのセリが終わるのを待った。

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