築地市場の活け場は、扇形をした市場の最も外側に構えている。いくつものパイプが、複雑に、縦横無尽に走る活け場のたたずまいは、川崎沿岸部に立ち並ぶ工場群に、少し似ている。活け場の中には、腰の高さほどある水槽がどこまでもどこまでも並び、プラスチックのザルで仕切られたそれぞれの水槽の中では、全国各地から届いた魚が、じっと呼吸をしていた。並んだザルの数は、千にせまる。
それぞれのザルには、産地、魚の名称、(ひとつのザルに入っている)本数、目方が記されている。この日に私が目にしたのは、カワハギ、マコガレイ、オコゼ、アジ、ホシガレイ、ホウボウ、クエ、シマアジ、ハモ、イシガレイ、ゴマハタ、タコ、フグ、アナゴ、メイチダイ、イシダイなど。
ひとつのザルに入っている魚は、1匹~数匹程度。数十匹もの魚が同居していることはない。荷主(出荷者)ごとにザルが分けられているため、例えば、マコガレイとオコゼが同じザルに入っていることもあり、ひとつのザルに一種類と限定されているわけでもない。
ひとつ、どうしてもわからない魚の名称があった。「テ」と書かれている。しかも「テ」の数が多い。
「『テ』というのは、タイのことです。昔は忙しかったから、省略していたんですよ。『石テ』と書けば、イシダイを指します」
中西さんは、魚の品定めをしながら、そう教えてくれた。略称は「テ」以外にもあり、例えば「外」とは千葉県銚子市の外川をあらわすそうだ。
活魚のセリが始まるのは5時25分ごろから。中西さんが活け場に入ったのは3時45分。品定めをするにしても、ずいぶん早めに入るのだなと私は感じたが、中西さんの動きを見て、合点がいった。
中西さんは、ザルに入った魚を触り、裏返して観察し、メモを取る。この動作を、ほぼすべての水槽でひたすら繰り返していく。
「やっぱり触らないと、いいのが見つけられないんですよ。触らないと取れない(ほしい魚をせり落とすことができない)です」
中西さんはこの日、特にカレイを多く見ているように私には見えた。カレイを選ぶポイントは何か。