しかし、前半29分のプレーを境にオーストラリアが徐々に圧力を強めて日本ゴールに襲い掛かる。それでも32分にはGK西川周作が好セーブを見せ、原口と山口蛍らの体を張った守備などで前半を1-0とリードを保ったまま終了することができた。後半の日本のゲームプランは、リスクマネジメントをしながら追加点を奪うことにあった。ところが後半立ち上がりの53分にPKから同点弾を奪われ、プランはあっけなく崩れてしまう。

 この場面、ブラッド・スミスの左クロスをペナルティエリア右でトミ・ユリッチがトラップしたところに、原口がやや後ろから体当たりすると、巨漢のユリッチがあっさり倒れる。ハリルホジッチ監督は常々デュエル(球際の強さなど)を強調するが、激しいだけがデュエルではないだろう。そこにはPKを獲得するしたたかさも含まれているのではないか。オーストラリアはこのPKをキャプテンのイェディナクが確実に決めて同点に追いついた。

 試合はその後、オーストラリアの攻勢が続くが、日本は両サイドハーフの原口や小林はもちろん、本田も自陣ゴール前に戻って守備に参加。ホームで勝利が欲しいポステゴグルー監督が勝点3を目指してロビー・クルーズ、ティム・ケーヒル、マシュー・レッキーと次々に攻撃的なカードを切ったのは当然だ。対するハリルホジッチ監督は疲れの見えた小林と本田に代え、終盤に清武と浅野を投入。浅野には守備だけでなくカウンターを期待しての起用でもあった。

 そして同点のままアディショナルタイムに入って最後の交代カードは原口に代えてDF丸山祐市を起用。指揮官は5バックにするのかと思いきや、これが代表デビュー戦となった丸山を左MFに起用。その狙いは「(相手の)FK(対策)のためのチョイス」だった。イラク戦での劇的勝利を教訓に、原口を残すのではなく、守備固めを選択した。勝点1を確実にする采配には賛否両論あるかもしれないが、アウェイでは当然の策と言っていい。

 シュート数は公式記録がないため判明しないが、決定機の数ではオーストラリアを上回った。しかし、それを決められなかったのも事実である。もしも相手DFのパスミスがなかったら、日本の先制点は生まれていなかったかもしれないが、試合内容からして日本の負ける要素は少なかった。2011年のアジアカップ以来、これでオーストラリアとは6戦して3勝3分けと相性は決して悪くない。だから今回も、「負けなくて良かった」と思う。

 なぜなら負けた瞬間、ハリルホジッチ監督の進退問題が再燃する可能性が大だからだ。首位のオーストラリアに勝っていれば一息つけたものの、ドローでは11月のサウジ戦でも“綱渡り状態”が続く。「勝てる試合」をすんなり勝ち切れないのが日本代表の“不思議”ではあるが、4試合を終えての収穫は、原口が覚醒したことと、本田の0トップはオプションとして有効だということ。11月のサウジアラビア戦はこれらを踏まえて海外組と国内組の選手選考が気になるところだ。(文=サッカージャーナリスト・六川亨)