同点のまま迎えた95分のことだった。6分のアディショナルタイムに入る前からパワープレーのため前線に上がっていた吉田麻也へのクロスは左サイドに流れたものの、吉田がよく追いかけてマイボールにすると、そのプレーからFKを獲得する。清武のクロスはクリアされたが、跳ね返ったボールを山口がダイレクトボレー。右足から放たれた矢のようなシュートがイラクゴールに突き刺さり、劇的な形で勝ち越しゴールを奪った。ハリルホジッチ監督は「美しい勝利ではないが、勇気がもぎ取った勝利だ」と最終予選でのホーム初勝利に安堵の表情を浮かべていた。

 しかし、この試合を見た多くのファンは不安をいっそう募らせたのではないだろうか。所属クラブでの出場機会が少なく、移動もありコンディションがベストとは言えない岡崎と本田が、UAE戦の香川真司と同じように精彩を欠いていたからだ。これまで岡崎と本田は、日本が苦しい時にいつもゴールという結果でチームを救ってきた。しかしイラク戦の岡崎にはゴールの予感がまるで漂っていなかった。

 単なるコンディション不良なのか、それとも30歳という年齢からくる衰えなのか。前者なら時間が解決してくれるかもしれない。しかし後者の場合には早急に代役を見つけなければならない。岡崎の代わりは若手の浅野拓磨の成長を待つのか、それともベテランの大久保嘉人を再招集するのか。そして本田の後継者をどうするのか。10月11日のオーストラリア戦は、勝利を追及するのはもちろんだが、ベテラン選手の現在地を占う試金石となる可能性が高いかもしれない。

 それは、指揮官であるハリルホジッチ監督についても当てはまる。今回は山口の決勝点で“首の皮”がつながったに過ぎない。試合内容を見る限り、日本が成長しているとはとても思えない。それは前述したように主力選手のコンディション不良なのか、肉体的な衰えなのかは今後の試合を見守るとして、招集した選手と起用法の責任は監督自身が負うからだ。

 本田や岡崎、長友らは2010年のW杯以来の主力選手だが、どのタイミングで世代交代を図るのか。これがハリルホジッチ・ジャパンの今後を大きく左右するだろう。その重責を担えるのかどうか。オーストラリア戦だけでなくロシアへの道を指揮官は試されている。(サッカージャーナリスト・六川亨)

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