東京魚類容器の仕事が始まるのは朝の5時から。築地の中では、遅めのスタートだ。配達のピークを迎えるのは6時から9時頃まで。配達には、ここでもやはり、ターレが使われる。私は、原社長の次に古参となる小川さんのターレに乗り、配達に同行させてもらった。
今や珍しくなったガソリン仕様のターレに商品を載せ、小川さんは築地市場をスイスイと走っていく。配達先は、大卸と仲卸店舗だけではない。冷凍庫や加工場、関連事業者営業所など、市場内のあらゆる場所に、客先が展開している。小川さんは、地図も場内の標識を見ることもなく、ターレを運転し続ける。
配達先は場内にとどまらない。合物門をくぐって場外市場へ、勝どき門で信号待ちをしたのち場外の取引先へと小川さんのターレは進む。きっと小川さんは、場内の地図と配置に最も詳しい方のひとりに違いないと、私は感じた。
発泡は軽いため、風が強い日の配達はしんどいですねと私が話すと、「雨風が強いときびしいですね」と小川さん。発泡がぬれると、容器と容器がひっついて離れないため、やりにくいとのこと。最もきびしい季節は、台風が来る9月頃と、春一番の吹く4月頃とのことだ。
小川さんは配達をしながら、「足りないものはないですか」と聞いてまわってもいた。注文を待つだけでなく、不足・欠品はないか、新たな需要はないか、常に耳を澄ましている。1カ所の滞在時間は長くても2分ほど。ターレの運転にも接客にも、まるで無駄がない。
混み合う場内をターレで走りながら、小川さんが誰かに向けてさっと片手を挙げるしぐさをした瞬間があった。
「今、注文が入ったんですよ。いつもの3つよろしく、ってことです」