東西の歌舞伎で獅子奮迅の活躍を見せる花形俳優は、舞台を離れてスーツ姿になっても匂い立つような色香に包まれていた。3年前テレビドラマ『半沢直樹』でオネエ口調の国税局員を演じて大ブレークしたのも記憶に新しい。歌舞伎の花形俳優にして現代劇・時代劇と八面六臂(ろっぴ)で活躍する片岡愛之助がその「仕事論」を『アエラスタイルマガジン 32号』(朝日新聞出版)で大いに語った。その一部を特別に紹介する。
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映画で仮面ライダーを演じようと、テレビドラマで名探偵や刑事を演じようと、大河ドラマで名将を演じようと、僕の身体はどこを切っても歌舞伎俳優だと思っているんです。確かに、テレビや映画など映像の仕事と歌舞伎ではギアの入れ方がまったく違ってくる。
歌舞伎俳優がお役のために自分で顔を白く塗ったり、隈(くま)取を描いたりとメークアップをすることを「顔をする」と言いますが、僕たちはこの顔をこしらえている間に自然にお役へ感情と身体を移入していくようにできています。しかも無意識のうちにやれる。しかし、映像ではカメラや照明のテストなど何回もあり、本番に演技をマックスにもっていかなくてはなりません。メークの直しが入ったり、一息をついてから本番を迎えるなんて、なんと歌舞伎の舞台とは違うのかと最初は面食らったものです。
何があろうと常に本番は一回限り。これが生の舞台です。歌舞伎だけでなく舞台役者なら同じだと思います。映像も「テストのほうがよかった」では通らない。本番がベストであることは一緒なんですが、舞台は一期一会の一回性のなかで生きているライブ。これがたまらなく楽しいのです。