筆者が神社仏閣の記事を書くようになって以来、欠かさず訪れているお祭りがある。それが上野にある不忍池辯天堂の「巳成金大祭」だ。東京で一番の金運のご利益が授かれるとの評判がある。
○弁天さまはもともと音楽の神さま
不忍池辯天堂は、上野にある寛永寺の諸堂のひとつで、八臂大辯財天(はっぴだいべんざいてん)をお祭りしている。八臂大辯財天とは、簡単に説明すると8本あるそれぞれの手に宝珠や宝刀などを持つ弁天さまだ。
もともと、「弁才天」はインドの聖なる河を神格化した神で、その川の流れる音が美しかったことから音楽、ひいては芸術・才能の神さまとして崇められてきた。今でも七福神の絵に描かれる弁天さまが、琵琶を抱えているのは、このためである。
○弁天さまと「巳」の関係
その後、日本に渡ってきた弁天さまは、財宝の神さまの側面も持つようになり、「弁財天」とも表記されるようになる。また、元は川の神さまであったため、水に関係する場所に由縁を持ち、いつしか水神の使いである「蛇(巳)」とも習合していった。
さらに、弁天さまは日本固有の神道とも習合して、お寺だけでなく神社にも存在する神さまになった。多くの日本人はあまり気にしてはいないだろうが、弁天さまは本来仏教の守護神なのである。ちなみに現在の日本においては、神社では市杵嶋姫命(いちきしまひめのみこと)が弁天として祭られていることが多い。
○六角形のお堂の美しさ
さて、寛永寺はもともと、徳川家康が参謀であった天海に作らせた江戸城鬼門除けのお寺である。江戸の町は京都を模して作られており、寛永寺のある上野の山は比叡山を、不忍池辯天堂は琵琶湖竹生島の宝厳寺を模したもので、本尊も同寺から勧請されている。お堂は昭和初期に再建されたものながら、どこから見ても同じように見えるようにと造られた六角形となっており、不忍池の景色と相まって美しい。ここには日頃から弁天さまの一番古い御利益である芸の才能を求めて、江戸の芸妓(げいこ)衆、最近では芸能人などの姿もみられる。芸事のお守りをいただいて帰られるのだとか。
○金・銀・銭を紙に包んでおけば富む
このような経緯を持つ弁天さまを祭る不忍池辯天堂では、毎年9月の巳(み/へび)の日に毎年大祭が行われている。2016年は9月20日が巳成金大祭だ。60干支(えと)のうちの己巳(きし/つちのとみ)の日が9月にあれば、その日となるが、なければ9月中のいずれかの巳の日となる。ちなみに今年の9月の巳の日は9月8日と20日となる。今年鎌倉の銭洗い弁天は8日が大祭だった。また、4月や5月の巳の日を大祭としている弁天さまもある。
巳成金大祭では、「この日に金・銀・銭を紙に包んでおけば富む」という故事にちなんで、不忍池辯天堂でもこの日だけの金色に輝く「巳成金の御守」が授与される。巳成金では各地の弁天さまも大にぎわいだが、東京周辺では不忍池辯天堂はひときわ人気が高い。筆者のブログ(「東京のパワースポットを歩く」)でも、この時期が近づくと「巳成金大祭」のページへのアクセス数が急増する。
そして、水の神さまである弁天さまだけに、巳成金の日は雨天が多い。台風上陸の日にあたった年もあったくらいだ。今年は8日の巳の日も雨だった。いや、むしろ雨に降られた巳成金のほうが縁起がいいのかもしれない。
※干支とは、「子・丑・寅…」の十二支と、「甲・乙・丙…」の十干を組み合わせた、60周期の数の数え方。例えば「甲子(こうし/きのえね)」「丙寅(へいいん/ひのえとら)」などと言う。古来、日本では暦や時間、方位などさまざまな分野を表すのに用いられてきた。60歳の誕生日を還暦というのは「生まれた年に戻った」という意味で使われている。(文・写真:『東京のパワースポットを歩く』・鈴子)