■ジオラマと横須賀・総武線快速

 マツコの並々ならぬジオラマ(建物や風景などを立体的に再現した模型)への興味も、幼き頃のマツコの話に通じるものが感じられる。

 マツコがジオラマに惹かれたのには、元々建築物や地図を見ることが趣味だということもあるのだろう。地図を広げて「自分なら渋谷の再開発はこうする」という類の妄想をしていつまでも飽きないというから、筋金入りのマニアである。タモリとの感性の近さも感じさせる。

『マツコの知らない世界』のスペシャル版で、マツコのリクエストでジオラマが特集されたことがあった(2012年4月14日放送)。番組のなかで、都市開発業で有名な「森ビル」が制作している、東京を再現した巨大かつ精巧なジオラマが紹介された。実物を前にしたマツコは目を輝かせ、「品川のビルの並びってイヤですよねー」「新宿ってよくできてるよね。美しい街だよねー」などと街ごとの都市開発の違いを語り出す。その視線はとても俯瞰的だ。

 だがもう一方で、ジオラマはマツコに強烈なノスタルジーを喚起するものでもあった。

 同番組内で自分が実際にジオラマを作るとなったとき、マツコが特にこだわったのが、横須賀・総武線快速車両だった。それが走る姿は、「アタシの心象風景」だとマツコは言う。ジオラマのパーツを扱う専門店でその車両を探し求めてようやく出会ったとき、「これが青春だもん、アタシの」と語ったマツコの表情はとても印象深いものだった。

 再開発が繰り返される同時代の動きを俯瞰的にとらえながら、他方では個人的な記憶にまつわるノスタルジーに浸る。マツコがジオラマに向けるまなざしは、まさに複眼的なものである。

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