物価も相対的に安く、治安もよいとあって、このところ世界中から日本への観光客が増えているようだ。Youtubeなどの動画サイトでも、さまざまな国の言葉で日本の観光地を紹介する映像がちょっとした人気になっている。なかでも日本の神社仏閣の動画はかなり好まれているらしい。京都の伏見稲荷や山口県の元乃隅稲荷神社、広島の厳島神社など日本独特の赤い鳥居の映像は日本人から見ても美しいと思う。鳥居のほかにも実は意外なモノがあるお寺が人気を集めている。これを見たくて来日したという外国人もいるくらいなのだ。それはなにかと言えば東京・世田谷にある豪徳寺の招き猫群である。
●ゆるキャラ「ひこにゃん」ゆかりのお寺は世田谷に
豪徳寺は、招き猫発祥の地と言われて(これ以外にもいくつか発祥の地説がある)いる。そして、彦根城のキャラクターがネコの「ひこにゃん」となった理由がここにある。どういうことなのか順を追って説明しよう。
豪徳寺は、世田谷にある曹洞宗のお寺で、正式名称を「大谿山豪徳寺」と言う。創建は1480年で、ちょうど応仁の乱が終わり、群雄割拠の戦国時代に突入する少し前にあたる。関東の名門吉良氏の保護を受け栄えた寺も、1590年の豊臣秀吉による小田原征伐のあおりを受け、その後は荒廃の一途をたどった。
しかし、江戸時代になり徳川家康の腹心だった井伊直孝がこの地に立ち寄った際、一匹の猫に導かれて豪徳寺に入ったところ難を逃れ、和尚さまと縁を結ぶことができた、ということから状況は一変する。この「難」というのが「急な雨」だったとか「雷による倒木」だったなど諸説あるようだが、いずれにせよこの後、井伊直孝は豪徳寺を井伊家の菩提(ぼだい)寺と定め、多くの寄進をするようになった。
この話に出てくる猫にちなんで、境内に招猫観音を祭った招猫殿を作り、招き猫(豪徳寺では招福猫児と書き「まねぎねこ」と読む)が奉納されたため、豪徳寺と言えば招き猫のお寺として知られるようになった。
ところで、この井伊直孝は2代目の彦根藩藩主、そしてこのネコにちなんで彦根城のキャラクターが「ひこにゃん」になったというわけである。
招き猫は、今では世界的に知られたラッキーアイテムで、右手をあげたものは金運を、左手をあげたものは客を招くと言われている。加えて最近では色によっても魔よけや病気封じ、長寿などさまざまな福招きが仕分けされているようだ。
豪徳寺のものは左手をあげ、小判も持たないシンプルな1種のみ(サイズはいろいろある)。これは、豪徳寺が武士に帰依されていたことから潔さを好み、「運を引き寄せるのみ」という考え方をずっと引き継いでいるからにほかならない。