聴力レベルと声・音の大きさ目安(週刊朝日ムック『すべてがわかる 認知症2016』より)
聴力レベルと声・音の大きさ目安(週刊朝日ムック『すべてがわかる 認知症2016』より)
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 他人の言葉が聞き取りづらくなるとコミュニケーション能力が低下します。補聴器や人工内耳を使って聴力を維持して会話を楽しみましょう。週刊朝日ムック『すべてがわかる 認知症2016』で紹介した、聴力と認知症の関係を特別に公開します。

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 厚生労働省の認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)で、難聴は認知症の危険因子として挙げられています。

「目や耳などの感覚器が衰えると脳に伝えられる情報量が減り、認知症の発症や進行に影響すると考えられます」

 と、滋賀県立成人病センター研究所所長の伊藤壽一医師。とくに聴力の低下が重視される理由をこう説明します。

「目と比較して耳で受け取る情報量は少ないですが、会話は、耳からの情報(聴覚)をもとにおこなわれます。ですから聴力が低下するとコミュニケーション力がガクンと落ちるのです」(伊藤医師)

 聴力が落ちて他人の言葉が聞きとりにくくなると、会話がおっくうになります。人の話を聞いて、内容を理解したり判断したりする機会が減ると、認知機能の低下が促進されてしまうのです。

 聴力は加齢とともに徐々に低下し、50代ぐらいから高い音やささやき声が聞き取りにくい、といった軽度の難聴にまで聞こえが低下します。

「認知症に影響するのは、大きな声で話せば聞きとることができるくらいの中等度難聴以上の場合。中等度難聴は補聴器を使い、聞こえを補ってください」(同)

 どの程度聴力が落ちると認知症の発症や進行に影響するか、というデータはまだありません。しかし、「聞こえがよくなったら、認知機能が改善した」という個別の臨床報告は少なくないそうです。

「加齢による難聴は基本的には治療法がありませんが、補聴器などを使うことで聴力を補うことができます」(同)

 補聴器などで中等度難聴を軽度難聴ぐらいに矯正できれば、コミュニケーション力の低下も防げます。補聴器はそれぞれの人に合った微調整が必要。購入時は必ず耳鼻科医の指導を受けましょう。

「多少聞こえが悪くなっても、1対1で、相手が聞き取りやすい大きな声で話してくれれば、コミュニケーションがとれるもの。まわりの人も『耳が悪くて、どうせ聞こえないから』と思わず、根気よくコミュニケーションをとる努力をすることも大事です。補聴器を使っても聞こえが改善しない高度難聴の人でも『人工内耳』(耳の外につけたマイクで拾った音を内耳に埋め込んだ電極に伝え、聞こえを補う)という方法もあるので耳鼻科医に相談してください」(同)

(取材・文/植田晴美)

※週刊朝日ムック『すべてがわかる 認知症2016』より