客先ごとに分けられた発泡の中身は、実にバラエティーに富んでいる。魚だけでなく、貝類や甲殻類も入っているのだが、私がご紹介したいバラエティー感は、そこではない。豆腐、マヨネーズ、わさび、しょうゆ、漬物、バターなど、築地の仲卸のイメージに結びつきそうのない品々が、隙間なくぎっしりと詰められているのだ。

 取材を始めた当初は目にした品目名を書き留めていたが、早々に諦めた。いったいどれだけの品目を取り扱っているのだろう。「ウン千ですね」と教えてくれたのは、かつて買い付けを担当していた星野圭史さん。星野さんはそう言って、20枚ほどのプリントを私に手渡した。見るとそれは、品目リスト。例えば、スモークサーモンだけでも10種類以上あり、タイの種類は産地とシメ方によって幾つも分かれていた。少なめに見ても、1ページあたり40品目ほどが記載されている。40品目×20ページで800品目。これでも、全取扱品目のうちのごく1部だという。

 キタニ水産が魚を納入する先は、すし屋をはじめ、飲食店が多い。それぞれの客先の要望に応じ、鮮魚だけでなく調味料など、飲食店で求められるありとあらゆるものが発泡に詰められていった。築地の仲卸で、なぜ豆腐やマヨネーズにいたるまでの品をそろえているのか、謎がこれで解けた。

「長靴を引いてくることもあります。でも、サンダルのクロックスの注文が入ったときは、さすがに見つけることができませんでしたね」と話すのは、入社2年目の武田健太さんだ。配達を担当しながらも、自分に任せられたお客さんもいるため、現場での声に耳を傾けることを大切にしているという。

 まずは探してみようというキタニ水産の姿勢に感服しつつ、サンダルを築地の仲卸に注文する客の、キタニ水産への信頼感もすごいと思った。

 では、あのパソコン3台はどう機能しているのだろう。私は、キタニ水産データセンターたる事務所を訪ねた。3台のパソコンは、この事務所でセッティングされたものだった。

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