仕事上のコミュニケーションのみならず、そもそも人懐っこい従業員が多いとも感じた。

 取材の初日、現場の様子を率先して説明しくれたのは佐藤幹彦さん。主に仕入れを担当している。「見ているだけだと、何をやっているかわからないですよね」と、現場でのひとりひとりの役割や仕事の流れを、私から話を聞く前に、丁寧に説明してくれた。

 赤坂への配達に同行させてもらった武田さんは、道を聞かれたとき、すぐにスマートフォンでその場所を調べ、地図を表示して説明していた。「もしご不安でしたら、ご一緒しましょうか」とも。まだ配達が残っているのに、なんとも優しい心遣いだ。

 後日、別の取材で築地を訪ねていた際にも、場内である店を探すものの見つけられずにいた私は、たまたまキタニ水産の近藤寿人さんに会った。「実は◯◯さんを探しているんですが」と話すと、近藤さんは間髪入れずに「調べてみましょうか」と応じ、電話で店番(築地市場内の住所のようなもの)を調べてくれた。

 人懐っこい人間が多いのはここだけでなく築地市場全体の特徴でもあるが、その人懐っこさは、幾千もの品目の仕入れとともに、キタニ水産の自社便での配達に存分に発揮されているように思う。

 私が当初抱いた「?」がだいぶ解明されたところでこの取材を振り返ってみると、キタニ水産を「新進気鋭の仲卸」と表現しそうになるが、それは正確ではない。これまで私が見てきたのはキタニ水産の鮮魚部門。鮮魚とは別に、キタニ水産にはマグロ部門がある。

 キタニ水産はもともと、先代の社長である木村忠義さんと、現専務の谷口演男(のりお)さんが始めたマグロ専門の仲卸の店だった。1977(昭和52)年に設立。社名は、創業者のお二人の姓から1文字ずつとった。当時はすし屋さんを主な取引先としていたそうだ。現在は、木村忠義さんの3人の息子さんたちが中心となって、キタニ水産を運営している。

 当時の様子を、創業者のひとりである谷口さんが話してくれた。

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