「前回のロンドンでは、ベスト8までいってたくさん自信も得られた。北京では硬くなった苦い思い出もあって、今がある」

 過去2回のオリンピックを述懐しながら、錦織は続けた。

 「オリンピックならではの重さはあるけれど、楽しみにしている。メダルをもちろん狙って、頑張りたいと思います」

 究極の個人競技を戦うテニス選手は、「国のため」「チームメイトのため」というように、帰属する団体などのためプレーすることはまれである。だからこそ、時にそのような環境で戦うことで、「試合中に自分が強くなれるくらいのプレッシャーや重さも感じる」のだと錦織は言った。

 また、五輪での楽しみの一つは「ほかのスポーツの一流の方と触れ合う」こと。「日本に居ない僕には普段は全くない機会だし、そういう交流で得るものや、話して感じることもある」と心待ちにしている様子だ。

 「国がサポートしてくれるので、その分重みはあるというか、僕だけのことじゃない」

 そんな責任感も、錦織は十二分に覚えている。だが見る側としては、日ごろは孤独な戦いに身を置く彼が、「小さいころから見てきた」スポーツの祭典を心行くまで満喫し、ツアーとは異なる緊張感や高揚感の中から何かを持ち帰ってくれればと願うばかりである。

(文・内田暁)