この話が端的に示しているように、傲慢の後にはしばしばもめ事がやって来る。これは、国家や企業などの大きな組織のトップに限らない。上司、同僚、友人、恋人、隣人、場合によっては家族の中に傲慢な人が1人でもいると、振り回されて大変なことになる。傲慢な人がもめ事を引き起こしやすいのは、プライドが高く、自信過剰に陥りやすいからだろう。
もめ事くらいなら、じっと我慢していればすむかもしれないが、傲慢な政治家は実際に戦争を引き起こしかねず、笑い事ではすまない。そのため、ヒュブリスは古代ギリシャでも強く戒められており、傲慢の当然の報いとして破滅する物語がギリシャ神話には数多くある。
たとえば、ギリシャ神話に登場するイカロスの悲劇はその典型だろう。イカロスは、父が鳥の羽根を集めてこしらえた翼で空を飛び、「あまり高く飛びすぎてはいけない」という父の戒めを無視して、天に達するまで高く昇っていった。やがて、燃え立つ太陽に近づきすぎ、羽根をとめていたろうが柔らかくなって、ばらばらにほぐれてしまったため、墜落し、青海原のまっただ中に沈んだ。
イカロスの名前を冠した「イカロス・シンドローム」も、欧米では最近話題になっている。育児休暇取得を宣言し、安倍首相をはじめ自民党の重鎮政治家を招いて盛大な結婚披露宴を催した宮崎謙介・元衆院議員が、妻の出産直前の不倫を認めて議員辞職した騒動は記憶に新しいが、栄光の絶頂から真っ逆さまに転落した宮崎氏は、典型的な「イカロス・シンドローム」ではないか。
傲慢を戒める逸話は、もちろんわが国にも昔から数多くある。その極致ともいえるのが、平家物語で、「驕(おご)れる者は久しからず。ただ春の夜の夢のごとし」という一節は、よく知られている。これほど傲慢がもたらす悲劇を見事に描いた物語はないだろう。
この世の春を謳歌(おうか)し、栄光の絶頂にいたとしても、少々のことは許されるという驕りゆえに傲慢な振る舞いを続けているうちに転落した実例は、古今東西枚挙にいとまがない。過去の成功体験の上にあぐらをかき、「自分たちは特別な力を持っている」と自信過剰に陥って、目の前の現実をきちんと認識できなくなれば、イカロスのように破滅の危機にひんする。