まず糖尿病になると、体を感染から守る免疫細胞の働きが落ち、歯周病などの感染症にかかりやすくなります。さらに糖尿病の人は、血糖値を下げる作用があるインスリンというホルモンの分泌が減少したり働きが低下したりすることによって血糖値が上がり、高血糖になっています。高血糖の影響で炎症が強まるために、歯周病の症状も悪化しやすくなるのです。

 また、歯周病の炎症によって作り出される物質(サイトカイン)のいくつかには、インスリンの効きを阻む「インスリン抵抗性」があるために、歯周病患者は、血糖コントロールがしにくくなり、糖尿病を悪化させてしまいます。糖尿病は歯周病を悪化させ、歯周病も糖尿病を悪化させる――というように、双方向で悪影響を及ぼしているということです。

 しかしこれを逆手にとって、歯周病をしっかり治療すれば、血糖コントロールを改善できますし、薬や食事、運動などで血糖値が安定すれば歯周病の症状も良くなります。

【循環器の病気
 これまで1000人以上を対象におこなわれた研究によって、歯周病が重症化した人はそうでない人に比べて脳卒中や狭心症・心筋梗塞などの循環器病の発生率が1.5~2.8倍も高いことが明らかになっています。さらに、循環器病の原因となっているアテローム性動脈硬化症(コレステロールなどの脂質が動脈内膜におかゆ状に沈着した動脈硬化)の程度が、歯周病と関連していることもわかってきました。「アテローム性動脈硬化を起こしている部分を手術したら、そこから歯周病菌が検出された」という報告もたくさんあります。

 循環器病には歯周病菌が直接血管に障害を与えるだけでなく、炎症の起きた歯周組織で作られる「炎症性サイトカイン」が血流を通じて心臓や血管に移動することによって血管内皮細胞やアテローム性動脈硬化部分の免疫細胞が活性化され、心臓血管系の異常を引き起こすのではないかと考えられています。

 また心臓の病気の一つ「感染性心内膜炎」の場合、口の中の歯周病菌が原因になっていることもあります。抜歯や出血をともなう歯肉の治療時に歯周病菌が血液中に入り込み、心臓の内壁を覆う「心内膜」に感染して炎症を起こし、心臓の働きが低下します。

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