そんな内村は、目標を聞かれる度に「団体金」を繰り返す。それはアテネ五輪で冨田洋之が、「栄光への架け橋だ」という実況とともに鉄棒の着地を決め、28年ぶりに日本が団体金を奪還したあのシーンが目に焼き付いているからだ。内村が長年、追い求めてきた悲願の団体金は、昨年の世界選手権でようやく手にした。次のターゲットは、もちろんオリンピックでの団体金だ。

 しかし、最後の国内大会となった6月5日の種目別選手権大会で内村は、観衆の度肝を抜く鉄棒の演技を披露した。カッシーナからコールマンという高難度の連続手放し技だ。オリンピック日本代表最終選考会でもあるこの大会は、すでに代表が決定している内村にとっては、出場する必要のない試合だ。しかも、演技構成は1年ぐらい前に固めるので、オリンピックの2カ月前に構成を変えることは、まずあり得ない。しかし内村は、連続の手放し技に挑戦した。連続の手放し技には追加点がつくからだ。つまりこれは、種目別の鉄棒でも金を狙いに行くということなのだ。それでも、「ミスがあって予定していた構成とは違ったんで」と満足せず、反省点を口にするところは、やはり内村だ。

 3度目のオリンピックとなる今回は、「気持ちにも余裕がある。オリンピックの魔物も、よくよく考えてみたら自分自身で作り出してたものかなと思います」と発言している。常に進化しつづけるオリンピック・チャンピオンは、団体・個人・種目別鉄棒のトリプル金というドラマチックな夢を見せてくれるかもしれない。

(文・黒田順子)

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