「もちろんもう全盛期の力からはほど遠いが、イチローはそれを自覚し、現状でできる限りの準備をしているように見える。現在の自らの力を過信せず、適応できているのが大きい」 

 今季開幕直後、ナ・リーグの某チームのスカウトが筆者にそう話してくれたことがあった。その言葉が示唆する通り、一般的には“機転と閃きでプレーする天才”と捉えられているイメージがあるが、実際にはイチローは“積み重ねの人”。昨季は打率.229 、出塁率.282と自己最低の成績に終わったが、その後に現在の力を改めて認識し、適応を進めたからこそ今季に復活できたのではないか。

 メジャー現役最高齢トップ10のうち、7人が投手で、残る3人のうち2人はアレックス・ロドリゲス、デビッド・オルティスという指名打者。40歳を超えて、DHやリリーフ投手ではなく、身体に負担の大きい外野手としてプレーしているのはイチローだけである。その驚異の活躍の背後で、我々が長年目の当たりにしてきた準備の蓄積が役立っていることは間違いないのだろう。

(文・杉浦大介)