米ロサンゼルス国際空港の管制塔をモデルにしたという回転展望台。4階に喫茶店がある
米ロサンゼルス国際空港の管制塔をモデルにしたという回転展望台。4階に喫茶店がある
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喫茶店「手柄ポート」の様子。外側のテーブル席がくるくる回る
喫茶店「手柄ポート」の様子。外側のテーブル席がくるくる回る
窓からは姫路市内が一望できる
窓からは姫路市内が一望できる
完成当時、1966年の回転展望台。若者のデートスポットなどとしてにぎわったという
完成当時、1966年の回転展望台。若者のデートスポットなどとしてにぎわったという
半世紀にわたり、展望台から風景の移り変わりを眺めてきた喫茶店のオーナー、北川さん
半世紀にわたり、展望台から風景の移り変わりを眺めてきた喫茶店のオーナー、北川さん

 座席わきの窓から外を眺めると、遠くに「平成の大修理」を終えたばかりの世界文化遺産・国宝姫路城が見える。しかし、しばらくすると、はるか先に見えていた緑の山が海岸線に変わる。眼下の景色も、球場やプール、観覧車、ビル街とくるくると変わっていく。目の錯覚ではない。これぞ、懐かしの回転展望台からの景色だ。そんな回転展望台がいま、兵庫県姫路市でじわじわと人気を集めている。

 JR姫路駅の南西、手柄山中央公園内に建つ回転展望台は、4階にある喫茶店のフロア全体がくるくる回り、360度のパノラマビューを楽しめるのが売りだ。1966年、姫路大博覧会のパビリオンとして建てられた。展望台部分からにょきっと足が出ているような外観は、米ロサンゼルス国際空港の管制塔をモデルにしたという。近未来的というか、なんとも不思議な見た目である。

 喫茶店「手柄ポート」には、エレベーターで上がる。お店は直径11.3メートルのこぢんまりとした造りで、入り口のディスプレーには、クリームソーダやチョコレートパフェ、バナナホットケーキといった“昭和”をほうふつとさせる食品サンプルがずらりと並ぶ。店内は中央に厨房(ちゅうぼう)があり、その周りにテーブル席がドーナツ状に配置されている。この席の部分が電気モーターで回転するのだ。

 1周14分。高さ24メートルの窓からは、姫路市内が一望できる。お店のスタッフによると、天気の良い日は、播磨灘や淡路島も見られるそうだ。昔懐かしい遊園地の遊具のようで、一緒に訪れた3歳の娘は「プールが見えた!」などと言いながら、うれしそうに窓の外に手を振っていた。

 15年春、姫路市は市議会で、老朽化を理由に展望台の廃止案を発表。跡地を駐車場として再整備する方針を示した。

 このニュースはテレビなどで取り上げられ、「なくなるのなら一度は行っておこう」と考える人が展望台に押し寄せるようになった。スタッフによると、それまでは1日に数人しか客が来ない日もあったが、現在では週末は100人から150人、平日でも2、30人は訪れるという。

 勤続24年の女性スタッフによると、デートコースにしていた昔を懐かしむお年寄りや、子どものころ連れてきてもらったという子育て世代、普段は周りから見ているだけだったという若者など、さまざまな人が訪れるという。回るお店での接客にすっかり慣れたというスタッフは、「あなたは姫路市を見下ろせるいいところで仕事をしているわね、と言われたこともあります」と苦笑する。

 これまでは外から眺めるだけだったという小学生の息子と訪れた市内在住の30代の夫婦は、「終わってしまうと聞き、一度は登らないと、と初めて来た」と話す。「おもしろいし、楽しい」と刻々と変わる風景を眺めていた。

 喫茶店のオーナー、北川静夫さん(67)は、父親が経営を始めた高校時代から、展望台からの景色に親しんできた。「学校が終わったらいつも手伝いに来ていた。成人式もここから行きました。周りは田んぼばかりだったが、どんどん建物が建っていった。もしなくなった場合、こういう視点で街並みを見られなくなるのはさみしい」と懐かしそうに窓の外に目をやる。

 フロアが回る展望台やレストランは、日本では1950年代後半から70年代にかけて各地に建てられた。月日は流れ、老朽化を理由に閉鎖、回転を止めるなど、その姿を変えていっているが、現役のものもちらほら存在する。兵庫県内では、他にいずれも神戸市で、須磨浦山上遊園の回転展望閣(1周約45分)や神戸ポートタワー(1周約20分)の喫茶が営業を続けている。

 姫路市は現在、展望台の整備について検討中で、16年度中に結論を出す予定だ。展望台を惜しむ市民らの声も多いが、どうなるかは未定という。

 回転展望台の建設が流行した時期は、日本の高度経済成長期と重なる。飛行機があまり身近でなかった時代、高い場所から360度を見渡せる回転展望台は、人々が未来への夢や希望を感じられる場所だったのかもしれない。

(ライター・南文枝)

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