東京都立川市のマンションでこの冬、母子家庭の親子が亡くなった。地縁や血縁が薄れるなか、各地で相次ぐ複数世帯の「孤立死」。事件の背景と、母子が発見されたときの状況をノンフィクションライターの橘由歩氏は次のように書いている。

*  *  *

 東京都立川市は、東京西部に広がる多摩地区の拠点都市だ。大阪から東京へ、言葉も文化も異なる場所へ引っ越しを決めた母が、立川市に住居を構えたのは、2歳の息子が持つ障害ゆえだろうか。隣の武蔵村山市には、日本一の療育機関ともいわれる東京小児療育病院があるからだ。

 2010年4月、母子は立川市羽衣町にある新築マンションl階の部屋に入居した。6畳洋間の1LDKで、家賃は約10万円。前月に完成したばかりの3階建て全12室のマンションは、外壁が大理石仕様の瀟洒(しょうしゃ)なつくりで、オートロックも完備していた。

 このとき、母のYさんは43歳、次男のRくんは2歳半。真新しい部屋で、YさんはRくんの将来を見据え、希望をもって生活を始めたことだろう。

 しかし、2人は2度目の春を迎えることはできなかった。12年2月13日に、親子そろって死後1~2カ月の遺体で発見されたのだ。

次のページ