福島第一原発の事故をめぐり、東京電力の勝俣恒久元会長ら元幹部3人が、業務上過失致死傷の罪で東京地検に強制起訴された。新書『福島原発、裁かれないでいいのか』を出版し、今も各地で講演活動をつづけている元京都地検検事正の古川元晴氏に、今回の強制起訴について聞いた。(聞き手/朝日新聞出版 書籍編集部 部長代理・斎藤順一)
――強制起訴決定をお知りになって、どのように思われましたか?
福島原発の事故は防ぐことができました。国会の事故調査委員会でも、「人災であることは明らかである」と断定しています。この事故の影響で、10万人を超える人々が、自分が住んでいた家に戻ることができません。水素爆発を起こした原発は今でも放射能を放出し、毎日何万トンもの汚染水が発生しています。事故は収束していません。それなのに、具体的な原因究明もせずに、無罪で終わらせていいわけがありません。
――しかし東京地検は、これまでに二度も、「東京電力は今回の事故を具体的に危険が予測できなかった」として不起訴処分にしてきましたね。
まったく、おかしな話です。原発のように、いったん事故が起きると取り返しがつかない重大な被害が発生する恐れがある業務には、万が一にもそのような事故を起こさないよう、できる限りの最善の措置を講じるという、高度の注意義務が課されていることは社会の常識で、最高裁も認めているところです。そして、東京電力は最大15.7メートルの津波が来るという具体的な予測を手にしていました。また、それは科学的な根拠があるものでした。
――しかし残念ながら、その「15.7メートル」という予測は採用されませんでした。
東京電力は、そのような大きな津波は過去に来たことがないから確実な予測ではないとして「想定外」とし、社団法人土木学会が発表した5.7メートルという数字の方を採用したのです。そして今もなお、あの津波は「想定外」だったと主張しています。