――それだけでなく、「万が一」に備えるという姿勢がまったくなかったと思えるのですが。
東京電力は非常用のディーゼル発電機や配電盤などを地下に設置していたのに、何の津波対策もとらなかったため、水没して使えなくなってしまいました。また、こうした非常事態を想定した訓練を怠っていたことも明らかになっています。
「想定外」という言葉には2つの意味があります。ひとつは、本当に予測できなかった場合。もうひとつは、予測できたけれど意識的に外してしまった場合です。しかし原発事故のように、一度起きてしまえば、子や孫だけでなく、その次の世代までが放射能汚染に苦しめられてしまう危険について、予測できていながら意識的に外してしまう場合の「想定外」が、言い訳として通用するはずがないことは明らかです。
――では、これまでに日本で起きた事故は、どのように裁かれてきたのでしょうか。まずは、具体的に危険が予測できなかったとして裁かれなかった事故にはどういうものがあるのでしょうか。
2005年に起きたJR西日本の福知山線脱線事故は、106名が死亡、493名が負傷しました。この事故で責任者は裁かれていません。鉄道会社の責任者は、現場のカーブでの脱線事故は過去に例がなく、運転士の暴走によって起こされたものであり、その危険性を具体的に予測できなかったと主張、全員に無罪判決が出ています(一部上告中)。
しかし、現場は半径305メートルの急カーブでその手前までの最高制限速度は時速120キロでした。そして、この事故が起きる前に、JR函館線で貨物列車が、時速118キロで半径300メートルのカーブに進入して脱線転覆するという、かなり類似した事故が発生しており、JR西日本もこのことは知っていました。したがって、過去に例がなかったわけではないのです。また、ATSという自動列車停止装置も設置する計画は始まっていましたが、個別に危険なカーブを把握して設置する方式はとられていませんでした。