■自信の低下を予防する
海外派遣された隊員の観察から遅発疲労のことを知っていた私たちは、隊員が災害派遣から帰って間もないうちに、遅発疲労について教育を行いました。もちろん個人でも疲労管理をしてもらうためですが、実はそれより重要な目的があったのです。それは「自信の低下」を予防することです。
私は、自信を3つに分けています。まず、何らかの課題ができるようになる「“できる”という自信」、第1の自信と呼んでいます。これはわかりやすいですね。しかし、これ以外に人間の生きる力の根底を支える自信があと2つあるのです。
それは、「自分の体力や生き方に対する自信」である第2の自信と、「守ってくれる仲間がいる、愛されている、必要とされている自信」である第3の自信です。
自衛隊員は、厳しい任務でも達成できる自信を持っています。そんな隊員が災害派遣を終えしばらくたったとき、突然気力が出なくなったり、体調不良に陥ったりした場合、どうなるでしょう。
「もう、終わったことなのに、自分だけあのことを引きずっている。自分は弱い人間だ、自衛官失格だ」と考え始めるのです。つまり、3つの自信の区分でいえば、第2の自信の低下です。
第1の自信の低下は、何らかの成果や結果で比較的簡単に取り戻せる。しかし、第2、第3の自信が低下してしまうと、それを取り戻すには非常に多くの時間と努力が必要になります。
だから私たちは、遅発疲労を紹介し、「それは普通のことだ。君がダメな自衛官だということではない、ただ、頑張って疲れが残っているということだ」ということをしっかり理解させたかったのです。
■自衛官の第3の自信を支えてくれたのは…
そして、もう一つ、自衛官の第3の自信を支えてくれた大きな要因があります。
それは、「国民からの感謝の言葉」です。国民に感謝されていると自衛官が認識できたことは、自衛官の第3の自信を非常に強く支えてくれました。
ベトナム戦争では、参加した米軍の自殺やPTSDが非常に多く報告されています。命をかけて戦ったのに、国民の支持を得られなかったからです。
あの震災で自衛官の活躍に救われた人も多いでしょう。しかし一方で、私たち自衛官も、国民のみなさんの感謝の気持ちに支えられていたのです。