マッチは家庭で炊事や風呂たき、ランプの点灯などに使われ、生活必需品だった。戦後は広告マッチが浸透したが、ライターやコンロの自動点火装置、電化製品の普及にともない需要が激減。1970年代をピークに国内出荷数量は減少した。しかし、震災後に注目を集め、国内出荷数量は増加傾向に転じている。

 一時は数百社あったマッチメーカーだが、現在も製造を続けているのは10社程度。生産は回復傾向にあるとはいえ、ピーク時には遠く及ばない。だが、中村社長は「欧米では、現在でもマッチは生産されている。いざという時のために、生活に必要な水と火は国内でまかなえるようにしたい。ライターはほとんど輸入に頼っているし、マッチも、一度製造をやめたら作れなくなる。時代に合わせて形を変え、なんとかして残したい」と話す。

 そのため、「タダで配られる広告マッチ」から「付加価値をつけて売るマッチ」へと移行。防災用マッチに加え、明治から昭和の広告ラベルを復刻したレトロなマッチ、スマートフォンなどで撮影した画像をラベルにしたオリジナル缶マッチなどの企画型商品を生み出し、生き残りを図る。

 最近では、常備するだけではなく、普段の生活で使ってもらおうと、フランスで130年以上の歴史があるペーパーアロマ(紙のお香)とマッチや小皿のセットを発売。ペーパーアロマは蛇腹折りにして端から燃やすと、白檀のような香りが立ち込める。マッチ箱には神戸ポートタワーのイラストを採用し、お土産やプレゼントにも使えるようにした。

 マッチはいろいろなことに使える。消臭作用もその一つ。屋外の公衆トイレなどでマッチを擦ると、悪臭の成分と化学反応が起こり、においが消えるのだ。また、山上など気圧が低い場所ではライターやガスボンベが使えないため、マッチが役立つという。

 筆者が子どものころ、寒い冬はマッチでストーブをつけていた。火がつくとうれしく、温かい気持ちになった。東日本大震災から5年を前に、改めてマッチの良さに目を向けたい。(ライター・南文枝)

暮らしとモノ班 for promotion
大谷翔平選手の好感度の高さに企業もメロメロ!どんな企業と契約している?