「裁判官、弁護人、検察官の質問に、ずっと『覚えにありません』『仰ることの意味がわかりません』と答えるのです。でもその都度、右耳を向けるしぐさをみせていました」(夕刊紙記者)
野々村被告からみて右側に座っている弁護人からの質問では、寝転んでいるようなしぐさで耳を近づける。そして同じく右側に座っている検察官の質問には、腰を捻じるように耳を傾けた。
「号泣会見でもみせた、“ののちゃんポーズ”でしたっけ? あの時も手を右耳に当てていましたよね。もしかすると、耳が聞こえにくいのかもしれません。午後は今にも泣き出しそうな様子で、被告本人が記憶障害に言及する場面もありました。本当に野々村被告が責任能力があるのか、とても気になりました」(傍聴した30代兵庫県在住の男性)
こうした空気感を反映してか、検察官は、まるで幼稚園児に噛んで含めるように、優しく野々村被告に質問した。被告は、その都度、「覚えにございません」と答えるが、声の調子は今にも泣き出しそうだった。
口の悪い傍聴人のなかには、「キレ芸破裂せず」「もうすぐ号泣」と茶化す人もいたが、多くは「本当に野々村被告に責任能力があるのか」という点に関心が向いたようだ。
「投票した者の責任を感じて、初めて裁判を傍聴に来ました。最初は、“西宮の恥”“兵庫県の汚点”という意識があったのですが、今日の公判をみて、われわれ有権者にも責任があったかと考えを改めました。どうも本当に責任能力があるのかどうか疑わしい。このまま彼に刑事責任を取らせることが本当にいいことかどうか」(野々村被告が県議時代に選挙区だった西宮市の30代男性)
明確な供述を避けて、「お時間を頂きたい」と話す野々村被告に対して、裁判長が「時間がないのだから」と急かす場面もあった。
しかし、それは被告に“通常の責任能力”があるという前提の話だ。もし責任能力がない被告に刑事責任を取らせたとなるとわが国の刑事訴訟上、大きな問題が残ることになる。
今回、野々村被告の勾留という事態を受けて、再度、責任能力の有無を鑑定する必要が出てくるだろう。一地方議員による詐欺事件は、わが国刑事訴訟のあり方、被告の責任能力の有無という大きな問題に波及しかねない事態となった。次回の公判は、2月22日13時10分から神戸地裁で行われる予定だ。
(フリーランス・ライター・秋山謙一郎+dot.編集部)