G大阪に敗れた浦和の選手たち。中央は関根。(撮影・六川則夫)
G大阪に敗れた浦和の選手たち。中央は関根。(撮影・六川則夫)
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 第95回天皇杯全日本サッカー選手権決勝が1月1日、味の素スタジアムで行われ、G大阪がパトリックの2ゴールで浦和を2-1と下して連覇を果たした。G大阪はナビスコ杯、チャンピオンシップ(CS)とも準優勝だったが、3度目の挑戦で今シーズン初タイトルを獲得。天皇杯は2008年と09年に続き2度目の連覇となった。

 CS準決勝に続きG大阪の牙城を崩せなかった浦和にとって痛かったのは、柏との天皇杯準決勝で柏木が負傷し、決勝ではベンチにも入れなかったことだ。G大阪の長谷川監督も「柏木がいれば(攻撃を)中と外を使い分けてくるが、いないとなるとサイド(攻撃)に圧力をかけてくる」と予想した。

 その予想通り、浦和はボランチの阿部が最終ラインに入ってゲームをコントロールしながら、森脇や槙野の両DF、そして梅崎と宇賀神の両MFを高い位置に上げてサイド攻撃に活路を見いだそうとした。

 しかし32分、倉田のタテパスにパトリックが抜け出し先制ゴールを決めると、マーカーの槙野は攻撃参加を控えるようになる。そして36分。李忠成のダイビングヘッドが左ポストに当たった跳ね返りを興梠がワンタッチシュートで決めて同点に追いつくあたりはCS準決勝と同じ展開だった。

 ただ、今シーズンはゼロックス杯を含めJ1リーグとCSで4度対戦して1勝3敗の浦和は、G大阪から2点以上奪ったことがない(1勝は1-0の勝利)。そして、この日も追加点を奪ったのはG大阪だった。53分、遠藤の右CKからパトリックが追加点を決める。

 浦和は、ペトロヴィッチ監督が切れ味鋭いドリブル突破が武器の関根と、スピードスターの高木を投入し、“個”の力によるサイド攻撃にさらなる圧力をかけたが、終盤の決定機も相手GKに阻まれ同点ゴールを奪うことはできなかった。

 試合後、敗軍の将は多くを語らなかった。今が“旬”の関根を温存した理由は、前半は肉弾戦になることを想定し、「後半の方がスピードも生きるだろう。相手が疲れて来たら効果的になる」と語った。その判断は間違っていないかもしれない。

 そして準決勝ではスタメンだったズラタンをベンチに置き、李忠成を起用した。ズラタンは今シーズンのG大阪戦では、リーグ戦とCSで全得点(3点)をあげている。ただ、柏との準決勝で決勝点を決めたのは李忠成だった。“短期決戦では調子のよい選手、救世主を使う”ことは、さほど珍しいことではない。

 一方、G大阪の長谷川監督はハードな連戦でもスタメンは準決勝と同じで、チームに手を加えることはしなかった。柏木の不在を見越して浦和のサイド攻撃を想定し、ハーフタイムには前線からのプレスを指示。そしてCKの決勝点は「2日間でマルキーニョス(GKコーチ)とシジクレイ(コーチ)が分析して選手に伝えた」トリックプレーで奪った。

 両監督が、チーム事情に応じて考えられる限りの采配を尽くした試合で結果を左右したのは、言い尽くされた言葉ではあるが“経験の差”のような気がする。昨季は全てのタイトルを獲得しつつ、今季は目前で失うことが多かったG大阪。浦和は指揮官も含め、多くの選手に“負の経験”しかない。その差が両チームの明暗を分けたと言っていいだろう。

(サッカージャーナリスト・六川亨)