京都市内を南北、東西に結ぶ京都市営地下鉄。1981年に開業し、市民や観光客らの重要な足となっているが、経営状態は思わしくない。そんな苦境を救うべく誕生した、京都市営地下鉄・市バス応援キャラクターが人気を集めているという。
地下鉄の太秦天神川、松ヶ崎、小野駅にちなんで名付けられた女子高生「太秦萌(うずまさ・もえ)」と幼なじみの「松賀咲(まつが・さき)」「小野ミサ」の3人だ。沿線施設とのコラボレーションポスターや磁気カード乗車券、イベントグッズなどに使用され、2015年9月には、講談社から3人を主人公にしたライトノベルまで発売されて話題を呼んでいる。現在ではすっかり地下鉄の“顔”になった3人だが、もともとは職員の家族が描いたイラストだった。
地下鉄は、まず南北の烏丸線が北大路―京都間で運行を始め、順次駅を増設して延伸。97年に東西線が開業し、08年までに、烏丸線は竹田―国際会館間、東西線は六地蔵―太秦天神川間を走る現行の路線となった。
74年に烏丸線が着工し、約34年の歳月をかけて整備されたわけだが、その費用は総額約8500億円。トンネルを掘り進むたびに遺跡が見つかり、文化財調査を繰り返したことや、バブル期に東西線の建設を進めたことにより、建設費が高くついたことなどが影響した。
加えて思ったよりも利用客数が伸びず、市交通局の08年度決算では、運賃収入で運営費と建設費返済の利子分すらまかなえないという、全国の地下鉄の中で最も厳しい経営状況となった。このため総務省から経営健全化団体に指定され、改善に取り組むこととなったのだ。
交通局は、1日あたりの利用客数5万人増を目標に掲げ、10年4月に若手職員増客チーム「燃え燃えチャレンジ班」を結成。PRキャラクターとして生まれたのが萌だった。
予算がなかったため、絵が上手な職員の家族に依頼してポスターを作製。その際に、咲とミサ、萌の家族も考案された。それぞれの身長や体重、性格や趣味といった細かいキャラ設定まで作り込み、11年からキャラをポスターや磁気カード乗車券などに使うようになった。
そして13年、地下鉄のPRポスターへの起用が決定。プロの力を借りてキャラをリメークしようと、コンペで選ばれたのが、市内のデザイン会社と京都市出身のイラストレーター、賀茂川さんによって提出されたイラストだった。
賀茂川さんらは、職員らが一から作り上げたコンセプトを大切にしつつ、萌たちのイラストを発展させていった。その際に気を付けたのは、「萌え萌えし過ぎないこと」だ。極端にデフォルメせず、普通に京都の街並みに溶け込むキャラを目指した。
製作したポスターは発表されるたびに、ツイッターなどで「良い意味で激変」「京都市営地下鉄の本気」と話題になった。職員らは古都という土地柄、反対意見が出ないかひやひやしたが、表立った批判はほとんどなかったという。
14年度は沿線施設とのコラボポスター、市内の現役高校生らをボランティアで声優に起用したアニメCMを制作した。キャラも派生し、京都学園大学では萌のいとこの「太秦その」、マンガミュージアムではミサの兄の大学の同級生、「烏丸ミユ」が誕生した。15年9月には終電延長のPRキャラとして萌の姉、「太秦麗」も登場している。
観光客の増加や駅構内の商業施設の拡充などとも相まって地下鉄の1日あたりの利用者数は増え続け、14年度は35万9000人と、5年間で3万2000人増加した。単年度の赤字も縮小し、14年度決算では、5年前の10分の1以下の9億円の赤字となっている。
キャラが様々な形で展開していき、交通局の担当者は「想像をはるかに超えている」と驚く。しかし、累積赤字は14年度決算で3108億9900万円と、本格的な経営改善は道半ばだ。担当者は「萌たちが毎年新しいことを呼び込んできてくれる。地下鉄の利用促進という目的を忘れずに、この波に乗らせてもらいたい」。女子高生には荷が重い気もするが、萌たちには地下鉄の救世主として活躍してほしい。
(ライター・南文枝)