旅館側としては、人手不足の昨今、重いものが運べ、場合によっては送迎もこなせる若い男手は貴重な戦力だった。当初は遅刻や無断欠勤などのトラブルもあったが、クラブ側が厳しく指導したこともあり、落ち着いたという。現在では、「よく働いてくれるとの評判が広まり、うちもほしい、という旅館が増えてきた」(芹澤副理事長)そうだ。

 前述の柴田さんは高校時代、野球部引退後に少しアルバイトをしたことはあるが、旅館で働くのは初めて。宿泊客にカニや鍋料理などの説明をするのだが、最初は緊張してうまく話せなかった。働き出して約4カ月が経った現在でも、若い女性客を前にすると上がってしまうそうだ。

「お客様にとっては、料理も布団もきちんと用意できていて当たり前。自分でやってみて、(接客の)大変さが分かった」と言う。しののめ荘の女将、後藤京子さんは、「練習後と仕事を両立させるのは大変だが、若い人がいると職場の雰囲気が明るくなるし、助かっている。できればみんながプロに行って活躍してくれるとうれしいけれど……」と柴田さんを温かく見守る。

 城崎は、市内でも人口が少ない地域で、約3600人(15年7月末現在)が暮らす。狭い街だけに、選手たちは温泉やスーパーで声を掛けられたり、飲食店でサービスされたりと、応援や支援を受ける反面、パチンコ屋で見かけた、若い女性と歩いていた、といった普段の行動もすぐに広まってしまう。清水信英監督は「聞きたくない情報まで耳に入ってくる」と苦笑する。

 しかし見方を変えれば、それだけクラブが注目されているともいえる。移転して3年目、小中高生向けの野球教室やクラブ主催の野球大会、地域の祭りなどのイベント参加を通じて、徐々に地域にも溶け込んできた。清水監督は「堺にいた時よりも“おらがチーム”、という地元の人たちの温かさを感じる。全国大会に出て活躍したい」と話す。

 外国人観光客の増加に加え、“号泣兵庫県議”の温泉スキャンダル効果もあり(?) 、多くの人が訪れる城崎温泉。NOMOベースボールクラブは、地域に恩返しをすることができるのか。

(ライター・南文枝)

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