インターネット上で話題となっている京都大学オリジナルグッズ「素数ものさし」。京大の生協各店で販売されている商品で、その名の通り、素数である「2・3・5・7・11・13・17」にしか目盛りが刻印されていない。全長は18センチ。ものさしの上部にはセンチメートル単位、下部にはミリメートル単位の目盛りが素数で刻まれている。
測り方は独特だ。目盛りにない数――つまり素数以外――を測る場合は、素数同士の引き算をする必要がある。とにかく、普通のものさしで慣れている一般の人には使いにくいことこの上ない商品だが、そこが注目され、大ヒットとなった。
しかし、文系の人、こと数字を見ただけで頭が痛くなるような数学嫌いの人にとっては、このものさしの面白さは理解不能。「そもそも素数って何?」と、チンプンカンプンであろう。
素数とは、1とその数自身のほかに約数を持たない数のこと。2、3、5、7、11、13、17、19、23、29……と続く数のことで、これ以上は分解できない、いわば「数の原子」であり、あらゆる数を作っている究極の単位といえる。
これまでにも『99.9%は仮説』(光文社新書)、『数学×思考=ざっくりと』(丸善出版)などの著書で、数学・物理・宇宙などの難解なテーマをわかりやすく伝えて来た、サイエンス作家の竹内薫(たけうち・かおる)氏は、新著『素数はなぜ人を惹きつけるのか』(朝日新書) で、素数の魅力について述べている。
古代から、数多の数学者が素数の法則を見つけ出そうと躍起になっているが、現代でも、「完全な法則」は解明されていない。竹内氏は、「万能の法則が存在せず、ケースバイケースで導いていくしかない、というところが素数の面白さであり、厄介さでもあるのです」(同書より)と語る。
古来、そんな素数に魅了された数学者や科学者は、素数をさらに定義を導き出し、分類し、名づけてきたという。
たとえば、5、7のように差が 2 になる2つの素数は、「双子素数」。3、5、7のように間隔が2と4になる3つの素数は「三つ子素数」。3と7のように差が4になる2つの素数は、「いとこ素数」。5と11のように差が6になる2つの素数は「セクシー素数」といった具合だ。なお、「セクシー素数」は、ラテン語の 6 を「 sex 」というからだが、大半の人は、違う意味を想像してしまうだろう。
同書では、冒頭の「素数ものさし」をはじめ、さまざまなエピソードを交え、数学嫌いにも読みやすく、素数の魅力を紹介している。素数のミステリーに迫るとともに、数学者たちにとって特別な存在である素数の面白さが、身近に感じられるようになるだろう。