小泉今日子も、「InRed」ではなく「GLOW」の誌面を彩るようになりました。「GLOW」は、40代の「女子=プライベートな空間でより輝く存在」を対象にしています。誌面に登場するのは一流のプロフェッショナルが中心です。40歳を越えたら、それなりの社会的達成を遂げていないとプライベートも楽しめない。それがこの雑誌の主張なのでしょう。個人的には、「GLOW」の小泉今日子は、「InRed」の彼女より魅力的に映ります。熟練の「女優」ならではのたたずまいが、雑誌の雰囲気にぴったりだからです。
女性誌には「赤文字系」と「青文字系」の二系統があるとしばしば指摘されます。「赤文字系」は、「男性からもてること」につながるコンサバ系スタイルを提案します。「JJ」や「CanCan」「ViVi」などが典型です。これに対し「青文字系」は、ストリート系カジュアルファッションに焦点を当てます。読者は、「モテ」よりも「自分の好きな恰好をすること」を優先するタイプです。「Zipper」や「CUTiE」などが「青文字系」に分類されています。「自分自身のために費やされる女らしさ」につながる「女子」は、「青文字系」メディアで発展した概念です(「女子力」が「男性に対するアピール度」の意味で使われることもあり、紛らわしいのですが)。
「InRed」や「GLOW」は、「女子」を看板に掲げ、「男性ウケ」とは一線を画する「女性の魅力」を追求しています。位置づけとしては、大人になった「青文字系」読者のための雑誌です。いっぽう、「赤文字系」を卒業した女性たちは、30代で「VERY」、40代で「STORY」を読むことが多いようです。
数年前から「美魔女」というフレーズをしばしば耳にします。「本当は40代なのに、魔法にかかったみたいに20代にしか見えない女性」のことだといいます。「STORY」の姉妹誌で、40代女性にむけてコスメを紹介する「美st」が、最初にこの言葉を提唱しました。「STORY」や「美st」では、「理想の中年女性の姿」として「美魔女」をアピールしています(「美st」誌上では、「国民的美魔女コンテスト」が毎年行われています)。
小泉今日子は、かつて「青文字系」読者だった「40代女子」を象徴するような立場にあります。そして、中年になった「赤文字系」卒業生の「目指すべき姿」として推奨されているのが「美魔女」です。
2年前の「GLOW」誌上で小泉今日子は「体重とかも、実はガンガン増えてるんですけどね」と語っています。それでも無理なダイエットはせず、「47歳なりのベスト」でいいと考えているのだとか(注1)。「20代に見える40代」でありつづけるために、美容に励む「美魔女」とは対照的です。
小泉今日子と「美魔女」は、ある面から見ると「ライバル」といえます。ただし、両者の受けいれられ方の差は甚大です。40代になってからの小泉今日子が称賛を集めているのに対し、「美魔女」はしばしば否定的に語られます。
※「50歳を過ぎてからの『美魔女』と小泉今日子の違いとは?」につづく
※助川幸逸郎氏の連載「小泉今日子になる方法」をまとめた『小泉今日子はなぜいつも旬なのか』(朝日新書)が発売されました
注1 「小泉今日子になるには?」(「GLOW」 2013年5月号)
助川 幸逸郎(すけがわ・こういちろう)
1967年生まれ。著述家・日本文学研究者。横浜市立大学・東海大学などで非常勤講師。文学、映画、ファッションといった多様なコンテンツを、斬新な切り口で相互に関わらせ、前例のないタイプの著述・講演活動を展開している。主な著書に『文学理論の冒険』(東海大学出版会)、『光源氏になってはいけない』『謎の村上春樹』(以上、プレジデント社)など