1998年の『踊る大捜査線 THE MOVIE』では、サイコパスの犯罪者・日向真奈美を「怪演」しています。翌年の『共犯者』でキャスティングされたのは、DV夫に虐待されるパート主婦からマフィアのボスの「共犯者」に転じる聡美です。
この当時、狂気や猟奇性といった「人間性のダークサイド」に、人々の関心が集まっていました。
東西冷戦が終わり、新時代への期待に世界が湧いたのが1990年代初頭です。しかし、「共産圏諸国=アメリカにとっての大敵」を失ったことは、ハリウッドの映画産業にとっては危機でした。「万人が納得する悪役」の設定が難しくなったからです。そこで駆り出されたのが、「幼少期のトラウマのために精神に異常をきたした猟奇殺人者」でした。こうした事情から、『羊たちの沈黙』や『ツイン・ピークス』といったサイコ・スリラーが1990年代に量産されます。その影響は、アメリカ以外の各国にも及びました。
そんなトレンドが生んだ「ダークなキャラクター」に、小泉今日子は立てつづけに挑みました。その姿に関心を持ったのが、「役者にとことん考えさせる」独自の演出で有名な相米慎二監督です。
※「小泉今日子が女優として成功したのは元夫のおかげ?」につづく
※助川幸逸郎氏の連載「小泉今日子になる方法」をまとめた『小泉今日子はなぜいつも旬なのか』(朝日新書)が発売されました
注1 「永瀬正敏ロング・インタビュー」(「アクターズ・ファイル永瀬正敏」キネマ旬報社 2014)
注2 「インタビュー小泉今日子」(「アクターズ・ファイル永瀬正敏」キネマ旬報社 2014)
助川 幸逸郎(すけがわ・こういちろう)
1967年生まれ。著述家・日本文学研究者。横浜市立大学・東海大学などで非常勤講師。文学、映画、ファッションといった多様なコンテンツを、斬新な切り口で相互に関わらせ、前例のないタイプの著述・講演活動を展開している。主な著書に『文学理論の冒険』(東海大学出版会)、『光源氏になってはいけない』『謎の村上春樹』(以上、プレジデント社)など