鈴木:「もののけ姫」というタイトルで映画を作っているうちに宮崎駿がタイトル変えたいと言い出した。もののけ姫が主役になっていないと。主役はアシタカだと。俺が考えたいいタイトルがあると。「これは俺が考えた造語なんだけどさ、手編に耳3つで草かんむりつけて、草に埋もれながら人の耳から耳へと語り継がれていく物語、だからアシタカせっ記である」と。そのとき「みんながいいって言ってるんだよね」って(笑)。ずるいですよね。一体誰がいいって言ってるのか聞きたいですよ。僕、聞いた途端に「良くない」と思って、「そうですか~」って軽く受け流したんですよ。でも、向こうもさるもの。僕のニコニコの中から一瞬ね、「こいつは反対だな」というのをかぎとるんですよ。それで僕はどうしたか。1996年の年末に「もののけ姫」の第一段のテレビ予告を宮さんに何も言わないで日本テレビで流しちゃったんですよ。

半谷:既成事実を作ったんですね。

鈴木:宮崎駿は見ないと思っていた。でも誰かに聞いたんですね。1月2日に会社行ったらね、バタバタと僕の部屋にやってきてバンって開けてね、「鈴木さん、もののけ姫って出しちゃったの?」って。もうしょうがないでしょ。「出しました」って言ったらがっくり来ているんですよ。でも手遅れなんですよね。だけど、そこは僕のテリトリーなんだから。そのあと大変だった。映画の完成後に全国を回ってキャンペーンをすると、いろんな方が聞くんですよ。「どうして『もののけ姫』というタイトルになったんですか」と。そうすると宮崎駿は「鈴木さんに聞いてください」。僕がそのとき何度も繰り返したのは、「もののけ」という言葉と「姫」という言葉を組み合わせるセンスが素晴らしいということ。だからこれに勝るタイトルはないと。宮さん黙っていたんですよ。黙っていたくせにね、いろんなところでインタビューを受けると、「本当はアシタカせっ記だったんだ」と。ずっとそうでした。

半谷:宮崎駿さんとのお付き合いはこういう感じなんですか?

鈴木:だいたいそうですね。仲いいですからね。

半谷:選書会議でもちらっと出た話ですが、鈴木さんが宮崎さんに、(漫画家の)杉浦茂の話が『未来少年コナン』にかなり使われていると話したら大盛り上がりだったと。

鈴木:『未来少年コナン』を初めてテレビで見た日、僕は驚いたんですよ。ジムシーとコナンが手を組んで走り抜けるシーンはね、僕の記憶によれば杉浦茂以外の何物でもなかった。だから宮さんに会ったとき、「あれって杉浦茂ですよね」といったときの彼の喜びようは「これを分かってくれた初めての人に会ったと」。ほんとに興奮してましたよね。たぶん、それは大きかったですよね。少年講談全集を宮崎駿も全部読んでいたから、2人で通じる言葉っていっぱいあって。いま思い出せないけど、なんとか(=岩見重太郎)のヒヒ退治。僕も宮崎駿も大好きでいつかやろうとずっと話してたんですけど、いまだに実現していない。彼ね、大きくて凶暴な力を持っているのが好きなんですよね。それをやっつける。

半谷:いまだに実現していないという言葉に、僕らはかなりの期待を持っちゃうんですけど。

■まず面白いこと、そして多少意味があること

半谷:「コクリコ坂から」の話に戻ると、社長室に「真善美」という額があるんです。僕、古本で双面神ヤヌスのマークがついた真善美社というところから出ている本を手に入れた。その真善美なんだろうなあと思ってたんですけど。

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